社会現象にもなった『サタデー・ナイト・フィーバー』

1970年代の若者のライフスタイルがここに!
ディスコ・ブームを巻き起こした大ヒット作

2021/12/27 公開

全編を彩るビー・ジーズの楽曲も大ヒットした青春ダンスムービー

「ニューヨーク・マガジン」に、「新しい土曜の夜の部族の儀式(Tribal Rites of the New Saturday Night)」と題されたルポルタージュが掲載されたのは1976年のことだった。英国出身のライター、ニック・コーンがこの記事を書くために取材したのは、ニューヨークの中心地マンハッタンとは川で隔てられたブルックリンのそのまた郊外にあるベイリッジ。この町にはワーキングクラスに属するイタリア系が多く住んでおり、記事の中心人物である19歳の若者トニー・マネロもその一人だった。

コーンによると、普段はペンキ店で働くトニーは、土曜の夜になると全身キメキメのスタイルで、仲間たちと町のディスコ「2001オデッセイ」に繰り出し、ダンス・フロアで華麗に踊っては、賞賛を浴びることを唯一の生きがいにしているという。

若者の新しいライフスタイルを捉えた「新しい土曜の夜の部族の儀式」は評判を呼び、ビー・ジーズのマネージャーを務めていたロバート・スティグウッドが映画化権を取得。ジョン・バダムが監督し、『サタデー・ナイト・フィーバー』と改題された同作は、1977年に公開されると驚異的なヒットを記録した。

大ヒットしたのは映画だけではない。ビー・ジーズが書き下ろした劇中挿入曲「ステイン・アライヴ」、「恋のナイト・フィーヴァー」、「愛はきらめきの中に」はシングル・カットされるといずれもナンバーワンに。加えて彼らがイヴォンヌ・エリマンに提供した「アイ・キャント・ハヴ・ユー」も首位を獲得した。もはや『サタデー・ナイト・フィーバー』は単なるヒット作ではなく、社会現象だった。

「ディスコ・キング」トニーのダンスシーンは華麗そのもの!

製作会社パラマウントの社長マイケル・アイズナーは、コーンに「トニー・マネロに直接会って感謝したい」と熱望したが、なぜかコーンはそれをはぐらかし、とうとうアイズナーは会えずじまいに終わった。それから20年近い歳月が経過してからコーンは真相を告白した。トニー・マネロは架空の人物だったのである。

コーンは実際に「2001オデッセイ」を取材はしたものの、店内で踊る若者より、店の外で酔っ払ってクダを巻いている若者の方がはるかに多いことに失望したらしい。そもそもディスコはアフリカ系のゲイ・コミュニティから誕生したものだったので、イタリア系のストレートの男たちにとっては敷居が高い場所だったのだ。

これでは記事にならない。悩んだコーンがふと思い出したのが、1960年代にロンドンで知り合ったモッズの若者たちだった。ワーキングクラスに属し、普段はさえない日々を送っている彼らは、パーティーの時だけ最上級のスーツを着込んでクラブに繰り出しては、最新のR&Bで踊りまくっていた。コーンはモッズのライフスタイルを、ベイリッジの若者に転用して記事を捏造したのだ。つまりトニーどころか『サタデー・ナイト・フィーバー』で描かれた若者風俗すべてが虚構だったわけだ。

だが面白いことに、映画の大ヒットによって現実が虚構を模倣するようになった。全米各地に「2001オデッセイ」のようなディスコが次々とオープンし、ストレートの白人の若者が土曜の夜に押しかけるようになったのだ。それは海外にも飛び火し、日本でも「ディスコでフィーバーする」という言葉が流行したほどだった。

キラキラしているだけじゃない…さまよう若者たちの現実を描く苦さや複雑さも

こうしたディスコ・ブームは5年ほどで下火になったものの、映画としての『サタデー・ナイト・フィーバー』の評価は下がらないどころか、むしろ高まり続けている。理由は一見「週末にディスコで踊る」ライフスタイルを賛美しながら、実は「いつまでも楽しみは続かない」というメッセージが込められた脚本の苦さや複雑さにある。

トニーはダンスの上手いステファニーを誘ってダンス・コンテストに挑戦する

しかしそれでも監督がベイリッジの若者たちに注ぐ視線は優しい。映画を観た者なら、彼らの一人一人が慈しむように描かれていることに気づくはずだ。神父の修行からドロップアウトした途端、親から白い目で見られるフランク・ジュニア、スクエアなイメージから逃れようとするあまり行動が逸脱していくアネット、恋人を妊娠させてしまい絶望に苛まれていくボビー。

中でも最も細かく描き込まれているのが主人公トニーである。ダンスでは生来の華とスキルを発揮している彼だが、プエルトリコ系の若者グループに暴力を振るってから反省したり、ダンス・パートナーのステファニーに恋心を正しく表現できずに逆ギレしたりと、私生活はポンコツそのもの。それなのになかなか自分自身を変えられずにいる。

当時23歳のトラヴォルタが、セクシー&ワイルドな魅力を発散!

そんな彼は、映画のクライマックスで人生最悪の夜を過ごしたあと、落書きだらけの地下鉄に一人乗りこむ。そして日の出の到来とともに、ほんのわずかだが何かに目覚めた表情をする。トニーのアップがスクリーンに映った瞬間、観客は彼の瞳の中に自分たちの姿を見出す。たしかにトニー・マネロは架空の人物かもしれない。でも観客にとってはこの瞬間、確かに実在するのだ。トニーを演じたジョン・トラヴォルタが、この一作でトップスターになったのも納得である。

文=長谷川町蔵

長谷川町蔵●ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「CDジャーナル」「EYESCREAM」などに連載中。著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「文化系のためのヒップホップ入門1~3」(アルテスパブリッシング/大和田俊之と共著)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(DU BOOKS/山崎まどかと共著)など。人生で最も観た映画は『ブレックファスト・クラブ』。

<放送情報>
サタデー・ナイト・フィーバー
放送日時:2022年1月15日(土)10:00~、19日(水)12:00~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)サタデー・ナイト・フィーバー
放送日時:2022年1月11日(火)19:50~、22日(土)8:10~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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