運命の出会いをテーマにしたトム・ハンクス&メグ・ライアンの共演作『めぐり逢えたら』

最後の最後まですれ違い続ける展開にやきもき…
『めぐり逢えたら』が描く運命の恋が新鮮!

2022/10/31 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第20回に登場するのは、トム・ハンクスとメグ・ライアン共演のロマンティック・コメディ『めぐり逢えたら』(1993年)。2人の共演は『ジョー、満月の島へ行く』(1990年)に続き2作目で、ロマコメの名手、ノーラ・エフロンが監督&脚本を務める。第11回でピックアップしたエフロンの脚本担当作『恋人たちの予感』(1989年)と本作、そしてハンクス&ライアンが三度共演した『ユー・ガット・メール』(1998年)の3本は、メグ・ライアン×ノーラ・エフロンのコンビによるロマコメ3部作として根強い人気を博している。

愛する妻を亡くしたばかりで、その悲しみから立ち直れずにいる建築家のサム(ハンクス)は、8歳の一人息子、ジョナ(ロス・マリンジャー)を連れてシカゴからシアトルへと越してくる。クリスマスの夜、落ち込む父親を心配したジョナは人生相談のラジオ番組に電話し、「パパに新しい奥さんを」とリクエスト。慌てて止めようとするサムだったが、そのままラジオパーソナリティーのペースに流されて自身の心情を語ることになってしまう。一方、シアトルとは内陸を挟んだ反対側に位置するボルチモアでは、結婚を控える新聞記者のアニー(ライアン)がこの放送を聴いており、亡き妻を想うサムの切実な言葉に思わず涙を流していた。この出来事に運命を感じたアニーは、サムのことが頭から離れなくなり、顔も知らない彼を探し始めるのだった。

観る者の共感を誘うトム・ハンクスとメグ・ライアンの相性の良さ

小川「まさに『これぞロマンティック・コメディ!』という作品ですよね。ただ、アニーは、映画みたいな運命なんて信じられない…と思いながらも、でももしかしたら!と行動しますよね。もしかしたらとも思わない自分は、さらに現実的なのかもしれない…と思いました(笑)。公開当時は、共感できる層がそれなりにいたのかもしれないですが、今はさらに現実的になっている気がして。こう言ってしまったら元も子もないですけど、『こういった運命の恋なんてそう起こらないんだから、むしろ現実とかけ離れたファンタジーとして見る』みたいな意見の人も、まあ多そうな気はしますね」

松崎「ラジオを媒体にしているところにも、1993年という時代を感じますよね。今ならこれがネットになるのかな。この映画がおもしろいのは、恋に落ちる2人が最後の最後までなかなか出会えないところですよね。この前にノーラ・エフロンが脚本を手掛けた『恋人たちの予感』は、友人だった2人が互いの気持ちに気づくまでの物語でしたが、本作はより運命的な出会いをテーマにしています。アニーはサムの声に惹かれ、サムはたまたま飛行場で見かけたアニーに一目惚れをします」

小川「松崎さんが初めて本作を観たのはいつ頃ですか?」

松崎「劇場公開からしばらく経った後、テレビで放送されていたのを観たのが最初だったと思います」

小川「その頃は、すでに大人でしたよね?」

松崎「もう結婚していました」

小川「結婚している方にはどのように映るものなんですか?」

松崎「映画として素直に素敵だなと思いました。エフロンお得意の語り口に、うまいなって。メグ・ライアンが本当にキュートでしたよね。最近はあまりキュートって言葉を使わないのかもしれませんが」

小川「聡明でしっかりしていて、男性の思い通りには動かないという強い意志を感じさせるキャラクターではありますよね」

ラジオで聞いたサムの声に運命を感じた新聞記者のアニーを演じるメグ・ライアン

松崎「トム・ハンクスとの相性がすばらしいんですよね。この頃のハンクスはキャリアがピークに向かっている時で、すごく輝いて見える2人が組み合わさったのだから、それはときめく作品ができますよ!」

小川「本当に。ハンクス、たしかに声もいいし、素敵でした」

松崎「三の線のある二枚目でいいですよね」

小川「単純に美男美女の恋愛にはなっていないところも、高い共感性が得られた理由なんですかね」

死別した妻のことが忘れられないシングルファーザーのサムをトム・ハンクスが演じる

恋愛映画の名作『めぐり逢い』からの引用

松崎「アニーが1957年に公開されたケーリー・グラント&デボラ・カーの『めぐり逢い』が大好きという設定もよく効いています。この映画に影響を受けた彼女が、2月14日にエンパイアステートビルで会いたいというラブレターをサム宛に送るんですよね。結局、ここでもすれ違いが起こるのですが、ハート型のサインを点灯したビルを見たアニーが…。ビルの使い方は『めぐり逢い』とは異なりますが、アニーとサムに訪れる物語の着地点がとてもおもしろく、ここもエフロンならではの巧さだと思いました」

小川「そうですね。まあ、ここまで大きなことは起きなくても、隣り合わせになるとか、偶然的な出会いから結ばれるということは、現実にもあるんでしょうね」

松崎「たしかに。気づくと恋に落ちている、みたいなことはありますよね。それにしても、何度も言いますが、最後の最後まで2人がほとんど会わないことや、『めぐり逢い』からの引用は本当に巧いって思います」

小川「近年の恋愛映画って、キャリアや家族関係など人生において誰もが直面しうる問題や課題を絡めた作品が当たり前になっているので、本作のようにここまで純粋に恋愛にフォーカスしているのはちょっと新鮮に感じました」

松崎「仕事は背景って感じですよね。この頃はまだインターネットが普及していない時代だったこともあり、新聞記者であるアニーがそのリサーチ力を生かして、サムの住所を突き止めてしまうのにも妙に納得しちゃいました。でも、当時も言われていたことですが、完全に職権濫用ですよね(笑)」

小川「とはいえ、出会い系アプリの先駆けのように感じるポイントもなくはない気も。実際のその人を見ることなく、一部の情報から会いに行こう!となる流れは、似ていますよね。あとは、子どもがサムとアニーの運命を転がす感じもいいですよね。死別した妻のいない寂しさはずっと残るだろうし、新しい出会いを求める気がしないという時に、子どもが新たな出会いのきっかけになることがあるかもしれない」

松崎「荒療治的な感じですよね。手紙の返事をくれた人の方がいいよ、という子どもの素直な意見もおもしろく感じました」

小川「お父さんがデートしている女性のクセのある笑い方が気になってしまったり」

アニーとサムの出会いをアシストするサムの息子、ジョナ

松崎「でも、そういうのってありますよね。悪い人じゃないけれど、一つダメなところを見つけると、それが気になるみたいな。ところで、原題の『Sleepless in Seattle』は直訳すると『シアトルの眠れない男』になりますが、邦題のタイトルは上手くつけましたよね」

小川「ちょうど、恋愛における距離の感覚が変わり始めた頃の映画なのかなと思いました。身近なところで相手を見つけなくていい、運命の人は近くにいるかもしれないけれど、距離ではない、そういう概念があって生まれた物語かなと」

松崎「距離の感覚は映画をだいぶ変えましたよね」

小川「フィジカルな距離と心の距離、時代が進むにつれて両者が必ずしもイコールではなくなっていった印象はありますね」

松崎「携帯電話やスマートフォンの登場で、すれ違いを描くこと自体もだんだん難しくなっていますからね。それは現実世界にも通じるところで、それだけに本作で描かれるすれ違いがより新鮮で、みずみずしく映るのかもしれません」

構成・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
めぐり逢えたら
放送日時:2022年11月8日(火)21:00~、25日(金)3:30~

(吹)めぐり逢えたら 【ゴールデン洋画劇場版】
放送日時:2022年11月24日(木)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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