クモに噛まれた少年マイルスが、別世界のスパイダーマンと共に戦いながら成長していく『スパイダーマン:スパイダーバース』

映画界の転換点にして革命!
『スパイダーマン:スパイダーバース』で目にした最先端

2024/02/05 公開

心を掴まれることを約束するから頼むから観てほしい…

映画には時々、転換点となるような作品が現れる。この作品以前・以後で潮流ががらりと変わるような作品。たとえば人々の中にある宇宙のイメージを大きく変えた『スター・ウォーズ』、SFアクションの在り方を飛躍させた『マトリックス』、スペースオペラだというのにストーリーとリンクした既存のポップミュージックをふんだんに取り入れた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』。そしてアニメーション映画の転換点にして革命、その後の世界の潮流を変えた作品には『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)が挙げられるだろう。映画好きは必見の作品。いや、映画がたとえ好きじゃなくとも、アニメがあまり得意じゃなくても、心を掴まれることを約束するから頼むから観てほしい……正直DVDを配って回りたいほど、私はこの作品を愛している。

ニューヨークに住む高校生のマイルス・モラレスはある日、変異したクモに噛まれ、特殊な力が使えるようになる。自身が突然手にした力の真相を探っていたところ、敵と交戦するスパイダーマン/ピーター・パーカーと遭遇。危険な実験を止めようとして重傷を負ったスパイダーマンは、マイルスに後を託して死んでしまう。

彼の遺志を継ぐべく訓練に励むものの、なかなかパワーを使いこなせずにいたマイルスの前に、別次元からやって来たスパイダーマン/ピーター・B・パーカーが現れる。何者かによって時空が歪められたため、他の次元から来たスパイダーマンたちと共に、マイルスは戦うことを決意する。

ニューヨークを守るスパイダーマン/ピーター・パーカーは、ヴィランであるキングピンとの戦いで命を落とす(『スパイダーマン:スパイダーバース』)

スパイダーマンは、普通の人間が突然変異したクモに噛まれてなるということや、その多くがヒーローとして戦うなかで身内を失っているということ、今自分が生きている世界以外の世界が異次元には無数に存在しているというパラレルワールドの概念さえ押さえていれば、「スパイダーマン」シリーズを観たことがなくても存分に楽しめるのが本作。魅力はやはり、革命的ともいえるビジュアルのアニメーションにある。

それはまるで動くアメコミ。クリエイターによって描かれた絵がそのまま動き出したかのような2Dらしさの残る質感とバキバキの色使い、エッジの効いた構図。マンガのコマのような吹きだしや書き込まれた効果音も一緒に動いていたり、あえてコマ数を減らし、歌舞伎の見栄のような、決めポーズからの動きをカクカクとしたアニメーションで表現することでかえってスピード感を助長していたりと、斬新さは枚挙に暇がない。ありとあらゆるところに小ネタが散りばめられていて、その情報量は一度では拾いきれないほど。それぞれの次元からやって来たスパイダーマンたちはタッチもトーンもまるで違う。そんな彼らが同じ画角に収まっているシーンは、はちゃめちゃなのにどこか統一感もあって、その奇妙さが生む絵としての楽しさに心を奪われた。

別次元から現れたスパイダーマンたちを元の世界に帰すべく、協力し合ってキングピンに挑む(『スパイダーマン:スパイダーバース』)

映画技術は日進月歩で進化しているとはいえ、その最先端を体感するどころか、むしろ先取りしているのでは?これは西暦2500年製作じゃないとおかしくないか?と思ってしまうほどの凄まじい技術に、何度観てもクラクラしてしまう。人類はここまでたどり着いたんだ……!と圧倒されること間違いなし。第91回アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いたのも納得だ。

新たな別次元のスパイダーマンたちと出会い、強大な敵に立ち向かうことになる『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

並行世界の私はきっと歯を食いしばって頑張っている

なによりその作品から伝わってくる思いは何度観ても胸を打つ。あなたは決して独りではない、というメッセージは、まさしくマーベルの礎を築いたスタン・リーがずっと伝えてきたものだ。エンドロールには作品公開前に亡くなった彼への追悼文も挿入されており、こうやって彼の魂は作品の中でずっとずっと生き続けるんだと涙が止まらなかった。

どこまでいっても人はずうっとひとりぼっちで、伝えきれないその寂しさに時々くじけてしまいそうになることもある。けれど、その力の秘密を抱え、仮面を被って生きてきたスパイダーマンたちも他の次元に生きる仲間に出会えたように、私だって、並行世界の私がきっと歯を食いしばって頑張っていることを知っているから、ひとりじゃない。交わりもしない遠い世界で生きる彼女たちを裏切らないために、これからも頑張り続けるのだと、力が湧いた。

マイルスと親密になるグウェンが抱える喪失や孤独も描かれていく(『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』)

続く2作目となるのが『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)。前作で技術の最先端を見せてくれたにもかかわらず、そのさらに先の先を描く圧倒的な世界観にはもうお手上げ。情報量も前作の100倍ほどになっており、脳の容量をかなり使うので、なにか甘いものなどエネルギー源を摂取してからの鑑賞を推奨する。

スパイダーマンを継承し、ヒーロー活動をこなしていたマイルスは、前作で共に戦った別次元のスパイダーマンであるグヴェンと再会し、様々な次元のスパイダーマンが集まる「スパイダー・ソサエティ」を訪れる。しかし、そこでスパイダーマンたちに運命づけられた悲しい定めを知ったマイルスは、そんな未来は受け入れたくないと運命に抗うことを決め、立ちはだかる無数のスパイダーマンたちと戦うことになる。

冒頭で広がるグウェンの生きる次元は淡い色合いの水彩画のようなタッチで描かれ、まるでアートのよう。一つ一つのシーンを切り取って額装して飾りたいと思うほどに美しく、その時点でもう、ただでさえ先進的だった前作からさらに飛躍的に進化していることを観客に見せつけてくる。次から次へと現れる様々なパターンの、バラバラの個性を持つスパイダーマンにわくわくしっぱなし。きっとあなたの好みにドンピシャのベスト・スパイダーマンに出会えること間違いなしだ。

スパイダー・ソサエティで、無数のスパイダーマンと出会ったマイルスだが、やがて全員と戦うことに…(『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』)

3部作の2作目ということで、最高に盛り上がるタイミングでエンディングを迎える本作。続く3作目の公開がもう、待ちきれない!もちろん今回も第96回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされている。日本時間では3月11日に行われるアカデミー賞の発表までにぜひ、時代の最先端の目撃者となれ。

文=宇垣美里

宇垣美里●1991年生まれ 兵庫県出身。2019年3月にTBSを退社、4月よりオスカープロモーションに所属。現在はフリーアナウンサー・俳優として、ドラマ、ラジオ、雑誌、CMのほか、執筆活動も行うなど幅広く活躍中。

<放送情報>
スパイダーマン:スパイダーバース
放送日時:2024年2月11日(日・祝)19:00~

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
放送日時:2024年2月11日(日・祝)21:00~、21日(水)14:15~
チャンネル:WOWOWシネマ

(吹)スパイダーマン:スパイダーバース
放送日時:2024年2月13日(火)19:15~、25日(日)20:00~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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