〜あの頃、胸をときめかせたブラットパックの青春映画〜
1980年代の若手スターが出演した、今なお瑞々しい傑作3本

共感度たっぷりの青春群像劇『ブレックファスト・クラブ』『セント・エルモス・ファイアー』

2022年は『トップガン マーヴェリック』が特大ヒットを記録し、1986年の前作『トップガン』も再びクローズアップされた。同作はトム・クルーズをトップスターの地位に押し上げた記念碑的な作品。振り返れば1980年代は、次世代スターを誕生させた映画の宝庫であり、その記憶とともに思い出されるのが「ブラットパック」という言葉である。

ブラットパックは、直訳すれば「悪ガキ集団」。ノリとしては、当時の大人たちが上から目線で若者を表現している感じ。このブラットパックという言葉、元をたどれば1950年代、フランク・シナトラやサミー・デイビスJr.らが自称した「ラットパック」に行き当たり、それをもじったもの。

1980年代の青春映画で頭角を現した若手スターたちの集団が、ブラットパックと呼ばれ、ブラットパック映画の最初の1本とされるのが、1983年の『アウトサイダー』だった。『トップガン』以前のトム・クルーズも出演していたが、彼のクレジットは7〜8番手くらいでメインキャストではない。クルーズはブラットパックの一員とはされず、『アウトサイダー』に出演したエミリオ・エステヴェス、ロブ・ロウが、その後のブラットパック映画の中心になっていく。

ちなみに『アウトサイダー』公開時は、日本の映画雑誌などでキャストたちが「ヤングアダルト」と呼ばれた。同作の原作が「ヤングアダルト(YA)小説」というジャンルで、この言葉はYA音楽、YAファッションなどカルチャー全般に広まる。『アウトサイダー』のキャストも公開当時はYAスターと形容され、その後、ブラットパックという表現が誕生し、その先駆け作品として記憶されることになった。

ブラットパックの呼称が使われるようになったのは、『アウトサイダー』から2年後、次世代スターの共演がウリになる2本の傑作が公開された1985年。その2作とは『ブレックファスト・クラブ』と『セント・エルモス・ファイアー』だ。2作ともに青春群像劇というスタイル。「集団」を意味するブラットパックがぴたりとハマったのである。

『ブレックファスト・クラブ』では、『アウトサイダー』にも出演していたエミリオ・エステヴェスが演じるアンドリューら5人の高校生が懲罰で休日登校を命じられ、図書館に集まってくる。キャラクターはもちろん、学内における5人の立ち位置はまったく違う。日常では接点がなさそうな関係性だ。アンドリューは体育会系。ブライアンは勉強が得意で、ちょっぴりオタク。ジョンはいわゆる不良。クレアは学内のプリンセス的存在。そしてアリソンは「不思議ちゃん」と呼ばれるタイプ。冒頭ではお互いに名前すら名乗らず、噛み合わない会話も繰り返していた5人が、やがてそれぞれが抱える悩みを吐露していく。まったく知らなかった者同士のこうしたプロセスは、ドラマの展開だけでなく、若手スターたちが撮影現場に集まって一つの作品を創り上げていく状況も重なり、『ブレックファスト・クラブ』はブラットパック映画の魅力が最高値に達した例となった。

なにより、観た人のほとんどが、5人のメインキャラクターの誰かに自分を重ね合わせてしまう設定＆脚本の妙に、37年を経た現在も感心させられる。5人が体現する、高校内でのスクールカースト(階級)をここまで鮮やかに描いたのも『ブレックファスト・クラブ』の功績で、ドラマ「glee／グリー」や日本映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)などその後の数多くの名作に、影響を発見することができる。

『ブレックファスト・クラブ』のエミリオ・エステヴェス、ジョン役のジャド・ネルソン、アリソン役のアリー・シーディの3人が続けて共演したのが『セント・エルモス・ファイアー』。こちらはちょっと年齢設定を引き上げ、大学を卒業したばかりの友人グループ7人の絆や恋愛、葛藤などを、シビアなエピソードも盛り込んで描いていく。キャストは前述の3人のほか、『アウトサイダー』のロブ・ロウ、この後、『ゴースト／ニューヨークの幻』(1990年)などでトップスターとなるデミ・ムーア、ブラットパック映画の中心の一人であるアンドリュー・マッカーシー、そしてメア・ウィニンガム。

学生から社会人へ移るという人生でも最大の転機は、ドラマや映画の題材にふさわしいが、ここまでエモーショナルに、共感度たっぷりに描いた作品も珍しい。ブラットパック俳優たちもそれぞれ独自の輝きを放っており、特に同年の『ブレックファスト・クラブ』と観比べれば、同じ人物が成長したとも錯覚させられるエミリオ・エステヴェスに、まったく違うキャラクターのジャド・ネルソン、アリー・シーディと、それぞれのアプローチが感慨深かったりもする。

ブラットパック映画には欠かせないジョン・ヒューズ監督の第一作『すてきな片想い』

そして『ブレックファスト・クラブ』の残りの2人、ブライアン役のアンソニー・マイケル・ホール、クレア役のモリー・リングウォルドが共演しているのが『すてきな片想い』(1984年)だ。ブラットパック映画は青春群像劇の印象も強いが、若手スターがメインキャストなので当然のごとくラブストーリーにフォーカスした作品も多い。『すてきな片想い』は、そのパターン。

16歳を迎えたサム(サマンサ)の、誕生日から翌日までを描く物語。上級生のジェイクへサムが想いを募らせる一方で、お調子者のテッドはサムに気があるようで何かと絡んでくる。その夜は高校でダンスパーティーが開かれ、さらに思わぬ計画も進行し…と、まさに「青春ド真ん中」な展開。

監督はジョン・ヒューズ。すでに脚本作品はあったが、『すてきな片想い』が初監督作。そして監督2作目が『ブレックファスト・クラブ』で、ヒューズは青春映画の旗手となる。『すてきな片想い』はヒューズの演出はもちろん、サム役モリー・リングウォルド、テッド役アンソニー・マイケル・ホールも公開時16歳ということで、作品全体に充満する、初々しく、瑞々しいムードを今も実感できる。

ブラットパック映画に正式な定義はないものの、ジョン・ヒューズがこの後、脚本と製作を手掛けた『プリティ・イン・ピンク／恋人たちの街角』(1986年／主演モリー・リングウォルド)や『恋しくて』(1987年)といった80年代の作品に、ブラットパック映画のテイストは刻印されている。いずれにしてもブラットパック映画の代表作が、『すてきな片想い』、『ブレックファスト・クラブ』、『セント・エルモス・ファイアー』の3本であることは間違いない。

時代を経て、青春映画のスタイルも大きく変わってきた。メインのキャラクターに、人種やセクシュアリティの多様性が意識されることも常識となった。『すてきな片想い』には中国人留学生が登場し、『セント・エルモス・ファイアー』でアンドリュー・マッカーシーが演じたケヴィンがゲイだと噂されたりもするが、あくまでもこれらの要素は付随的。ブラットパック時代の青春映画は、ある意味、失われた世界としてノスタルジーも纏っている。

ブラットパックは、ラットパックと違って、当人の俳優たちが名乗った言葉ではないし、誰がブラットパックの一員だったか明確な基準もない。彼らの多くは現在も俳優業を続けつつ、脇役でしか顔を見ない人もいる。しかし思いがけない作品や役で、その面影を発見するのも映画ファンの大きな楽しみである。

文＝斉藤博昭

斉藤博昭●1963年生まれ。映画誌、女性誌、情報誌、劇場パンフレット、映画サイトなど様々な媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品。

＜放送情報＞
ブレックファスト・クラブ
放送日時：2022年10月4日(火)12:30～、19日(水)19:00～

セント・エルモス・ファイアー
放送日時：2022年10月11日(火)21:00～、19日(水)23:00～

すてきな片想い [PG12相当]
放送日時：2022年10月13日(木)19:00～、17日(月)12:30～
チャンネル：ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります