主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」も大ヒット!
改めて感じる『ボディガード』が持つパワーと先鋭さ
2022/12/05 公開
「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第21回に登場するのは、絶大な人気を博したトップスターのケヴィン・コスナーと映画初出演の歌姫、ホイットニー・ヒューストンが共演し、大ヒットしたサスペンス・ラブストーリー『ボディガード』(1992年)。劇中でヒューストンが歌う主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」はグラミー賞などその年の音楽賞でも主役となった。
かつてロナルド・レーガン大統領の警護を担当し、現在は個人で活動している凄腕のボディガード、フランク(コスナー)。ある日、彼のもとに何者かの脅迫を受けるようになった人気歌手レイチェル(ヒューストン)の身辺警護をしてほしいという依頼が入る。依頼を受けたものの、当のレイチェル本人に危機感はなく、彼女が暮らす豪邸の警備システムは不十分だった。警備強化のために屋敷を改造し、スタッフにも厳しく指示していくフランクをレイチェルは快く思っておらず、意見の食い違いから2人は何度も衝突。しかし、ライブ中に多数の暴徒に襲われたところを救われたことで、レイチェルはフランクに心を許し、職務の関係を越えて愛し合う関係に発展していく…。
圧倒的なパワーに満ちたケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストンのスター感!
松崎「公開されてから30年も経つんですね。映画館に観に行ったのを覚えています」
小川「私は子どもの頃に、テレビで放送されていたのを母の隣で観ていた記憶があります。当時はデートムービー的な感じだったんですか?」
松崎「世界中で大ヒットし、日本でもかなり流行っていました」
小川「ケヴィン・コスナーとホイットニー・ヒューストン、2大スターの共演ですもんね」
松崎「しかも、コスナーは全盛期で、出る映画が軒並み大ヒットしていました」
小川「彼かハリソン・フォード、どっち派?みたいなのもありましたよね。私はフォード派だったような(笑)」
松崎「2人の年齢は一回りくらい離れているけれど、ちょうどブラッド・ピットやジョニー・デップ、ジョージ・クルーニーも出てき始めた頃で、彼らのちょっと上の世代という感じです。今回改めて観て、どうでしたか?」
小川「すごいなって(笑)。本当にサスペンスなのかと思うくらい行き当たりばったりな展開が目について…」
松崎「これといった伏線回収もないですしね(笑)」
小川「犯人もご都合的主義的に選んだのかな感が否めなかったですよね」
松崎「脚本を担当したのは『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』や『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』で有名になったローレンス・カスダンですが、実はカスダンが脚本家を始めた頃にスティーヴ・マックイーンとダイアナ・ロスをイメージして書いたと言われています。企画が進まないまま放置されていた物語を、カスダンと仲の良いコスナーが主演を務める形で映画化が実現したそうです。『フィールド・オブ・ドリームス』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『JFK』と出演作すべてが大ヒットしていたコスナーだったから、歌姫のヒューストンをキャスティングすることができたわけですね」
小川「2人じゃなきゃ成り立たなかったんでしょうね」
松崎「脚本は気になるところが多いですからね。でも、マックイーンの映画ってすごくカッコいいけれど、実は脚本に粗があるものも少なくないので、ある意味間違ってはいないというか…踏襲したのかな?って個人的には思いました」
小川「恋愛の始まり方もベタいうか…。2人が惹かれ合う展開はやや強引でしたね。関係を持った後に、『こんなことはダメだ』とフランクが言うシーンとか笑えましたけど」
松崎「そうなる前に踏みとどまって考えろ!って言いたくなりますよね。ただ、ツッコミどころ満載のスター映画と割り切ると、すごく楽しく観られると思いませんか?」
小川「犯人の脅迫がエスカレートしてきて、『ここでは守れない』と湖畔にある自分の父親が暮らすロッジへ連れて行ったり…。プロのボディガードとしてのプライドを押し出すわりには、フランクの行動はいくつも疑問があって、ツッコミ始めたら止まらないです(笑)。それでもコスナーとヒューストンの存在感や、ヒューストンの歌が素晴らしいので、観れてしまう。エンディングで悲しげな表情を見せるフランクの静止画もすごく印象的でした」
松崎「そうそう。それに、『オールウェイズ・ラヴ・ユー』は本当に大ヒットして、結婚式の入場曲としてもどれだけ使われたことか。ちょっと恥ずかしいのですが、僕も披露宴のお色直しで使用しました。妻に選曲を頼んだらしっかり入っていましたね。この曲ですが、元々はドリー・パートンが作詞&作曲したカントリーの楽曲だったんですよね」
小川「彼女がカバーしたことで、印象がすごく変わったんですね。主題歌もですが、挿入歌の『アイ・ハヴ・ナッシング』や『ラン・トゥ・ユー』も思わず口ずさんじゃう名曲じゃないですか。街中で曲が流れると映画のタイトルが自然と思い浮かぶくらいに親しまれている。そういう意味では『ボヘミアン・ラプソディ』的な楽しみ方ができる作品なのかもなと」
当時ではまだ珍しかった黒人女性と白人男性のラブストーリーを描くこと
松崎「それだけ素晴らしい楽曲を生み出したヒューストンが、10年前に亡くなったという事実に愕然とさせられます。女優に進出する前からすでにスターでしたが、本作への出演でさらに大ブレイクするわけですから。この映画が公開された翌年には、関係がうまくいっていなかったボビー・ブラウンとの夫婦仲も修復不可能となり離婚へ。映画の大ヒットが決定打の一つになったとも言われています」
小川「映画がヒットしていた頃は、当然ながらヒューストンの苦しみに観客は誰も気づくことはできなかったはずですよね。その後、ドキュメンタリーなども製作されたので、どうしても彼女のプライベートな境遇が紐づいてしまう側面があって。今だからこそ、レイチェルのキャラクターをヒューストンの人生と重ねて観てしまう自分もいるなと」
松崎「偶然だとは思いますが、そう考えると脚本に対する見方も変わってきますね」
小川「黒人女性が白人男性と恋仲になる設定の映画も、当時はそれほど多くなかったのだろうなとも思いました」
松崎「白人と黒人のロマンスを肯定的に描くことがタブーに近かった時代ですね。この少し前にスパイク・リー監督が登場し、そんなテーマも含めて社会問題に切り込む形で話題作を次々と発表してはいましたが、まだまだ少数派でした」
小川「いわゆる王道のラブストーリーではなかなかなかった気がしますね」
松崎「勢いのあった2人だったから納得させられましたが、大作ではすごく画期的なことですよね。本作の翌年1993年にはジュリア・ロバーツとデンゼル・ワシントンの共演で『ペリカン文書』が製作されるのですが、キスシーンはありませんでした」
小川「実際、様々な国籍や肌の色、年齢、性別、性的指向、性自認の人たちが関係し合いながら存在する社会が目の前にあったとしても、マイノリティの当事者が、自分の物語だと思えるような大作がスクリーンで観られるようになったのは、ここ最近のことのように感じます。『ボディガード』はそういった意味で、有色人種の女性の俳優たちの居場所を切り拓いた作品かもしれないですね」
松崎「たしかに、見方によれば先鋭的な作品ですね。一方で、コスナーの役作りはマックイーンを下敷きにしているので、彼由来の昔気質なカッコよさが出ていると感じました」
小川「無骨でストイックでしたね。ただ、この時代の映画に登場する男性はプレイボーイな人が多かったと思うので、逆に新鮮なキャラクターだったりしたんですかね。まあ、抜けているところもかなりありましたが…(笑)」
松崎「でも、そんなツッコミどころも含めて、みんなでワイワイ盛り上がりながら観られる楽しい作品だと思いますよ!」
小川「そういえば、リメイクの話も出ていましたよね?」
松崎「続報ないですね」
小川「誰があの曲を歌うのか。ストーリーはあのままなのか、その後を描くのか、気になります」
構成・文=タナカシノブ
松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。
小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。
<放送情報>
ボディガード
放送日時:2022年12月23日(金)21:00~
チャンネル:ムービープラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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