13人のドワーフとともに、彼らの故郷を取り戻す旅に出ることになったホビット族のビルボ(『ホビット 思いがけない冒険 [エクステンデッド版]』)

劇場版とは異なる「ホビット」三部作の物語とは?
深度がハンパない、エクステンデッド版の追加シーンに迫る

2022/10/03 公開

J・R・R・トールキンの傑作ファンタジー「ホビットの冒険」を、鬼才ピーター・ジャクソンが映画化した「ホビット」三部作。本作以前にトールキンの小説をジャクソン監督が最新のVFX技術を導入して映像化した「ロード・オブ・ザ・リング」三部作の前日譚で、ホビット族の青年、ビルボ・バギンズ(マーティン・フリーマン)が13人のドワーフとともに壮大な冒険へ旅立つ物語が描かれる。

これらのシリーズ6作には、劇場公開版に未公開シーンを加えて再編集したエクステンデッド版のパッケージが存在する。このバージョンは単なる未公開シーン追加版ではなく、世界観や物語をより深く理解できるものになっており、原作小説の大ファンであるジャクソン監督のこだわりも伝わってくる。今回、「ホビット」三部作のエクステンデッド版がWOWOWプラスで放送されるということで、主な追加シーンをピックアップして紹介したい。劇場版とは、本編鑑賞後に受ける印象にも大きな変化があるはず。

旅の道中、不思議な魔法の指輪を拾ったビルボは、その力を使って意外な活躍を見せていく(『ホビット 竜に奪われた王国 [エクステンデッド版]』)

ビルボとドワーフたちが強い絆で結ばれる姿をよりエモーショナルなものに

物語はホビット庄の袋小路屋敷で平和に暮らしていたビルボのところへ、灰色の魔法使い、ガンダルフ(イアン・マッケラン)がやって来るところから始まる。ガンダルフから「一緒に冒険をする仲間を探している」と言われたビルボはこれをすぐに拒否。しかしその晩、彼の家に次から次へとドワーフたちがガンダルフの案内で現れ、かつて邪悪な竜スマウグに奪われたドワーフの王国エレボールを取り戻す旅に、「忍びの者」として加わってほしいと言われる。生きて帰れるかもわからない危険な旅に二の足を踏むビルボだが、眠っていた冒険心を呼び起こされ、凶暴なオークや巨大なクモ、美しいエルフ族らが待ち受ける広い世界へと飛び出すのだった。

第一部『ホビット 思いがけない冒険』(2012年)では、ビルボとドワーフたちの種族を越えた友情が描かれる。しかし、当初ドワーフたちはお世辞にも戦士とは呼べないビルボの能力を疑っており、それはリーダーのトーリン・オーケンシールド(リチャード・アーミティッジ)も同様。崖から落ちそうになったビルボに対し、「初めから無理だったのだ。来るべきではなかった。足手まといだ」ときつい言葉を投げていた。一方のビルボも疎外感を感じており、そのせつない心情もエクステンデッド版で確認できる。

ガンダルフの導きでエルフが暮らす裂け谷にとたどり着き、ドワーフとエルフの種族間の関係は決して良くないものの、領主のエルロンド卿(ヒューゴ・ウィービング)から歓迎を受けることになったビルボたち。ここでドワーフたちが仲間同士で過ごしているなか、ビルボは一人で館を探索している。そんな様子を見かねたエルロンドに「なぜ仲間といないのだ?」と尋ねられ、「仲間と思われていないから」と返すビルボ。ドワーフたちから認めてもらえていないことを寂しく思う気持ちがひしひしと伝わり、クライマックスでトーリンと彼が抱き合うシーンをよりエモーショナルなものに昇華している。

ちなみに、裂け谷ではドワーフたちがどんちゃん騒ぎをするシーンも追加。宴会中に、陽気な性格のボフール(ジェームズ・ネズビット)がテーブルの上で足踏みをしながら軽快に歌い始め、つられたほかのドワーフたちも歌ったり、食べ物を投げつけたりしている。また、トーリンの甥で一番若いメンバーのキーリ(エイダン・ターナー)がハープを奏でるエルフの女性にウインク。それを怪訝そうに見ていた屈強な戦士のドワーリン(グレアム・マクタビッシュ)に慌てて、「エルフ女なんて好みじゃない。顔に髭もないし」と弁明し、「でも、あの子は悪くない」と別のエルフを指すが、グローインに「あれは男だ。バカ」とたしなめられている。ドワーフたちの個性が掘り下げられているほか、第二部『ホビット 竜に奪われた王国』(2013年)から登場する闇の森のエルフの戦士、タウリエル(エヴァンジェリン・リリー)とキーリが惹かれ合う伏線にもなっている。

ドワーフたちを率いるエレボールの王子だったトーリン・オーケンシールド(『ホビット 思いがけない冒険 [エクステンデッド版]』)

どうしてカットした!?興奮度MAXの戦闘シーン

エレボールを追われ、流浪の民となったドワーフたちは、かつての地下王国モリアを復興するため、この地を占拠するオーク軍と壮絶な戦いを繰り広げた。回想シーンとして映像化されたこの戦いでは、スロール王(ジェフリー・トーマス)が討たれるが、彼の孫であるトーリンが敵の首領、アゾグに深手を負わせたこともあり、ドワーフたちの勝利に。しかし、犠牲の数はあまりにも多く、モリアを取り戻すまでには至らなかった。

ここまでのあらましは第一部の劇場版でも確認できるが、第二部のエクステンデッド版ではトーリンの父、スライン(アントニー・シャー)について触れられている。アゾグがスロールの首をはねたのを見て、仇を討とうとするトーリンを制止するスライン。「息子を殺させはせん。お前はここにいろ」と自ら敵に向かっていくが、その後の行方がわからなくなってしまったことが語られている。

しかし、スラインの消息は意外な形で発覚する。ネクロマンサーと呼ばれる謎の存在が、ドル・グルドゥアの廃墟で怪しい動きをしていることを察知したガンダルフ。詳細を調べるため、ドワーフたちと別れて一人でこの地を訪れるも、そこでネクロマンサーの襲撃に遭う実はネクロマンサーの正体は、かつて世界を恐怖で支配した冥王サウロンであり、その圧倒的な力の前にガンダルフは囚われてしまう。

ガンダルフとネクロマンサーの戦いは劇場版でも描かれていたが、エクステンデッド版ではドル・グルドゥアに幽閉されていたスラインが登場する。やせ細り、着ているものもボロボロで正気を失っているが、トーリンの名前を口にするなど、いまでも息子のことを気にかけている。そして、ガンダルフと一緒に脱出できる道を探すことになるが、突如として出現したネクロマンサーことサウロンに取り込まれてしまうのだ。その間際、「息子に愛していると伝えてくれ」と言い残しており、トーリンへの愛の深さに胸が締め付けられる。

エスガロスの人たちから慕われるバルドと、スランドゥイルの息子で高い戦闘能力を持つレゴラス(『ホビット 決戦のゆくえ [エクステンデッド版]』)

第三部『ホビット 決戦のゆくえ』(2014年)は、スマウグからエレボールを取り戻したトーリンたちと、そこへやって来たオークの大軍、エルフ軍やスマウグの炎に町を焼かれたエスガロスから落ち延びた人間たち、仲間の加勢に来たくろがね連山のドワーフ軍も交えた五軍の合戦が大きな見どころ。もちろん、エクステンデッド版でもこの合戦に数多くの未公開シーンが追加されている。

まずは、約束していた宝の分け前を拒否し、宮殿に立て籠もるトーリンたちに、人間たちのリーダー、バルド(ルーク・エヴァンス)や闇の森のエルフの王、スランドゥイル(リー・ペイス)が話し合いを持ちかけるところから。膠着状態が続くなか、鉄の足の異名を持つダイン(ビリー・コノリー)に率いられたドワーフ軍が到着し、エルフ軍&バルドたちとのにらみ合いに。

劇場版では、いまにも両軍がぶつかる!という瞬間に巨大なワームとともにオーク軍が現れ、ドワーフとエルフ、人間たちが共闘することになるのだが、エクステンデッド版では展開が少し変更されている。しびれを切らしたダインの合図でドワーフの山羊隊が出撃し、スランドゥイルも弓隊へ指示を送って矢の雨で応酬。しかし、ドワーフ軍から羽根車と呼ばれる対弓兵器が射出され、飛んでくる矢やエルフの兵士も吹き飛ばしていく。そのまま、エルフ軍の陣営に山羊隊が突っ込み、激しい戦闘に。そこに、地中からオーク軍が出現する流れになっている。

このほかにも、合戦シーンでは未公開シーンが次々と登場。戦闘に加わったトーリンたち13人のドワーフたちも大活躍し、肥満体型にもかかわらず、身軽な動きを見せるボンブール(スティーヴン・ハンター)や、彼の兄弟で巨大なトロルの上に飛び乗ってしまうボフールらのアクロバティックな動きなどで楽しませてくれる。そのなかでも特に必見のシーンと言って過言ではないのが、氷上でのカーチェイス(?)だ。

オーク軍の頭であるアゾグを討つため、山羊に乗って敵陣営に向かって行くトーリンと、彼に付き従うキーリ、キーリの兄フィーリ(ディーン・オゴーマン)、グローインという最強の戦士たち。エクステンデッド版ではここに至る経緯も長くなっており、本作でも屈指の盛り上がりシーンになっている。

先陣を切るトーリンを追って、グローインの兄のバーリン(ケン・ストット)が操縦する6頭の山羊が引く戦車に乗り込んだ4人。敵兵の密集地にも果敢に突撃し、次々と敵兵を屠っていくが、集団を抜けたところで、トロルの攻撃に遭い、戦車はトーリンからはぐれて凍った川を進むことに。そこで、トロルやワーグ(魔狼)に乗ったオークたちの攻撃を受け、山羊を1頭ずつ失いながらも、弩砲(バリスタ)で応戦するといった白熱したバトルが展開されるのだ。正直、このシーンが劇場の大きなスクリーンで観られなかったのは本当に惜しいことだと思う。

ちなみに、戦車が疾走するシーンでは、車輪に設置された刃物がオークやトロルの首や手足を切断し、ワーグの体もズタズタにするなど、血しぶきが舞うスプラッターな演出がされている。スプラッターホラーで注目されてきたジャクソン監督の、良い意味での悪趣味な映像センスを感じさせる。

エレボールの宝に心を蝕まれ、仲間たちへの忠義を失ったトーリンを心配したビルボが取った行動とは?(『ホビット 決戦のゆくえ [エクステンデッド版]』)

ここで紹介した以外にも、物語上の大事なシーンや感動的なシーン、胸アツなシーンがたくさん登場するエクステンデッド版。劇場版は観たことがあるという人も、新たな発見があってさらに楽しめること間違いなしなので、この機会にご覧いただきたい。

文=平尾嘉浩

<放送情報>
ホビット 思いがけない冒険 [エクステンデッド版]
放送日時:2022年10月10日(月・祝)12:30~、29日(土)15:45~

ホビット 竜に奪われた王国 [エクステンデッド版]
放送日時:2022年10月10日(月・祝)15:45~、29日(土)19:00~

ホビット 決戦のゆくえ [エクステンデッド版]
放送日時:2022年10月10日(月・祝)19:00~、29日(土)22:15~

ホビット 思いがけない冒険[吹替版]
放送日時:2022年10月12日(水)21:00~

ホビット 竜に奪われた王国[吹替版]
放送日時:2022年10月19日(水)21:00~

ホビット 決戦のゆくえ[吹替版]
放送日時:2022年10月26日(水)21:00~
チャンネル:WOWOWプラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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