「ソウ」シリーズのリー・ワネル監督によるサイコ・スリラー『透明人間』

名作古典ホラーを新たな形でリメイク
リアリティあふれる『透明人間』の恐怖とは?

2022/03/28 公開

富豪で天才開発者のエイドリアンに束縛され、彼のもとから脱出を図った女性セシリア。失意のエイドリアンは自死し、莫大な遺産が彼女のもとへと転がり込む。だが、その不測の死に疑問を抱いていたセシリアの身近で、不可解な出来事が頻発し、やがて彼女の命に危険をもたらす脅威となっていく…。

H・G・ウェルズによる名作を現代的にアップデート!

『透明人間』(2020年)は、SF文学の祖、H・G・ウェルズ(「タイム・マシン」「宇宙戦争」)によって執筆され、1933年に映画化された同名タイトルの由緒正しきリメイクだ。薬品の作用で身体が視認されない、そんな透明人間の凶行を描くのは従来どおりだが、当該キャラクターを科学者から工学エンジニアに、そして薬品の作用として解釈づけられていた透明化現象に、最新の科学装置が生みだす機能という新設定を与え、古典的な透明人間の物語をブラッシュアップさせている。

また、ストーリーの進行もタイトルキャラクターを中心としたものではなく、透明人間によって執拗な攻撃を繰り返される被害者に伴走するよう加工されている。元カレの拘束から逃げ出してきた主人公セシリア(エリザベス・モス)は、トラウマを克服して正常な生活を取り戻そうとしていた。やがて彼女は、死んだはずの元カレ、エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の気配を周囲に感じるようになる。

そもそもエイドリアンの自殺に疑念を抱いていたセシリア。「エイドリアンがなんらかの方法で透明人間になっている」と周囲に訴えかけるが、人々は妄想だと一笑に付す。そんななか、彼女の周囲では不可解な出来事が立て続けに起こり、ついに殺人事件までも招いてしまう。わけもわからないまま、セシリアは姿の見えない者を相手に、真っ向から立ち向かうことになるのだ。

こうした対立と逆襲の構図は#MeToo以降、女性のエンパワーメントに配慮したハリウッド映画の今日的なものといえるだろう。また、脅威の対象となる透明人間においても、他人を暴力性で支配しようとするDV(ドメスティック・ヴァイオレンス)傾向や、執拗なまでのストーカー気質に加えてソシオパス(反社会性性格障害)が性格づけられるなど、その犯罪者像と負の輪郭は極めて現代的だ。

死んだはずの元恋人の気配に怯えるセシリア

原点回帰しつつも現代の畏怖すべきモンスターとして生まれ変わった透明人間

こうした形で作品に深く社会問題を組み込んだものや、旧コンテンツを現代との接続のもとで甦らせるホラーの潮流は、本作をプロデュースしたジェイソン・ブラムが2010年代に活性化させたものといえる。世紀の変わり目となるミレニアムイヤー(2000年)に自社(ブラムハウス・プロダクション)を興し、商業映画の製作に本格的に打って出たブラムは、『グリーン・インフェルノ』(2013年)や『ゲット・アウト』(2017年)、あるいは『ハロウィン KILLS』(2021年)といった先述に相当する諸作を送り出してきた。そんなブラムが、ベーシックな設定だけが一人歩きし、オリジナルから乖離した透明人間ものが量産されてきたなか、ユニバーサル怪物ホラーの嫡流ともいうべき正統な透明人間を再開発の俎上に乗せたのである。

実在の軍事技術も組み入れるなど透明人間をリアリティある存在に

監督のリー・ワネルは盟友ジェームズ・ワン(『アクアマン』『マリグナント 狂暴な悪夢』)と共にシチュエーション残酷スリラー『ソウ』(04)をクリエイトし、以降はホラージャンルに特化した出演作や脚本作を手掛けてキャリアを展開。そして、2本目となる監督作『アップグレード』(2018年)で、AIを埋め込んだ男の復讐物語を捻りの利いたサスペンスへと昇華させ、本作への重要な布石を敷いてきた。

そんなワネルによる『透明人間』は、『アップグレード』と同様にSF的な臭気を強め、具体的な情報を提示せぬままヒロインの危機的状況を進行させ、彼女の心理的な不安を観る者に共有させていく。また、テーマやメッセージに囚われず、ひたすら恐怖演出を追求する姿勢をまっとう。姿の見えない相手が知らず知らずのうちに、自分の鼻先や耳元まで迫っている恐怖や極限状況を徹底して描き、観る者の油断を一瞬も許さない作品にしているのだ。

光学迷彩スーツは軍事技術の領域において、実用化を念頭に研究開発が進められ、透明人間を完全なる空想領域のキャラクターから、リアリティを覚える存在へとアップデートさせた。神秘性の代わりに得たすさまじいまでの説得力で、現代の畏怖すべきモンスターとなったのである。

文=尾崎一男

尾崎一男●1967年生まれ。映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

<放送情報>
透明人間(2020)
放送日時:2022年4月5日(火)17:45~
チャンネル:WOWOWプライム

透明人間(2020)
放送日時:2022年4月3日(日)21:00~、14日(木)15:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

透明人間(2020)
放送日時:2022年4月2日(土)21:00~、5日(火)14:15~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)透明人間(2020)
放送日時:2022年4月3日(日)21:00~、7日(木)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3
※放送スケジュールは変更になる場合があります

▼同じカテゴリのコラムをもっと読む

名作古典ホラーを新たな形でリメイク リアリティあふれる『透明人間』の恐怖とは?

名作古典ホラーを新たな形でリメイク リアリティあふれる『透明人間』の恐怖とは?

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

マイリストから削除してもよいですか?

ログインをしてお気に入り番組を登録しよう!
Myスカパー!にログインをすると、マイリストにお気に入り番組リストを作成することができます!
新規会員登録
マイリストに番組を登録できません
##ERROR_MSG##

現在マイリストに登録中です。

現在マイリストから削除中です。