第68回米アカデミー賞にて脚本賞や助演男優賞(ケヴィン・スぺイシー)を獲得した『ユージュアル・サスペクツ』

何度観てもおもしろい!
創意あふれる『ユージュアル・サスペクツ』の作品構造と演出法

2022/08/29 公開

でっちあげの事件による面通しでニューヨーク市警に召集された、元警官のキートン(ガブリエル・バーン)を筆頭とする5人の常連容疑者(ユージュアル・サスペクツ)たち。一堂に会した彼らは覚えのない嫌疑への報復として、密輸業者を護送中の汚職警官から強盗をはたらく。

だが、そんな5人のもとに、因果応報ともいえる依頼が舞い込んでくる。それは外国麻薬組織のコカイン取引を妨害することで、依頼人はカイザー・ソゼと呼ばれる、冷酷無比な麻薬王だった―。

脚本を手掛けたのは、のちに「ミッション:インポッシブル」シリーズを牽引することになるクリストファー・マッカリー

クリストファー・マッカリーの脚本によって複雑に階層化された作品構造

1995年に公開された犯罪サスペンス『ユージュアル・サスペクツ』は、ならず者集団と麻薬組織の凄惨な殺し合いで幕を開け、なぜこうした異様な事態が起こってしまったのかを、前者の生存人ヴァーバル(ケヴィン・スペイシー)の尋問から割り出していく。そして物語は事件の黒幕ともいうべき謎の男カイザー・ソゼの正体に迫り、犯罪者同士の殺し合いを誘発させたソゼは何者なのかという疑問に対し、映画は驚くべき解答を観る者に与えるのだ。

結果として本作は、サンダンス映画祭を起点に数々の映画祭で賞賛を浴び、『X-メン』(2000年)、『ワルキューレ』(2008年)の監督、ブライアン・シンガーのキャリアを本格的に始動させることとなる。また、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)以降の同シリーズを牽引するクリストファー・マッカリー監督の脚本作として強烈なインパクトを放ち、複雑に階層化されたストーリー構造は、現在のマッカリー作品にみられる作劇のプロトタイプといえるだろう。

なによりこの『ユージュアル・サスペクツ』をおもしろいものにしているのは、「偽りの回想」で観る者を煙に巻く点にある。

同作は生存者ヴァーバルの証言によって事態が呼び起こされ、真実を明かしていく回想スタイルをとっている。観客は映像で展開される例証を無条件に事実とみなす傾向にあり、こうした性質を活かし、本作は観る者の予測を華麗に、かつ巧技にミスリードしていく。

かつては悪手とも言われた「偽りの回想」が効果的に使われている

「偽りの回想」によって際立つカイザー・ソゼの存在感…

「偽りの回想」といえば、かつてサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックが自作『舞台恐怖症』(1950年)に用いたことで知られており、回想シーンにおいて被害者的な立場にあったキャラクターが、実際は主犯者だったというサプライズを同作にて講じている。だが空想にすぎない展開で観る者の感情を操作するやり方は、物語の信憑性を根本から損ね、アンフェアだという批判がヒッチコックに集中。以後、「偽りの回想」はサスペンス映画において悪手とみなされてきた。

しかし同時期、黒澤明の監督した『羅生門』(1950年)が、この「偽りの回想」を巧みに用い、正当性をもって極上のミステリーを成立させている。本作は同じシチェーションを登場人物それぞれの視点から回想させ、偽証の可能性を事前に示唆することで、観客に出来事の決定的な見解を与えない『舞台恐怖症』とは一線を画するものとなっている。それが延いては謎解きのフックとなり、近年ではリドリー・スコット監督の歴史劇『最後の決闘裁判』(2021年)で同様の手法が見られ、影響力の強さは計り知れない。

『ユージュアル・サスペクツ』は、この『舞台恐怖症』とも『羅生門』とも異なる「偽りの回想」で、観客を疑念の渦中へと巻き込み、果てに衝撃の結末へと辿り着かせていく。そして、「偽りの回想」が単に構成上の仕掛けではなく、カイザー・ソゼの常人離れした悪魔性も顕在化させていくのだ。ソゼの犯罪キャラクターとしての存在感を痛烈に覚えるクライマックスは、製作から四半世紀を超えた今でも、誰もが身の毛のよだつような興奮を得るに違いないだろう。加えてシンガーの演出は、常に変化する視点を明確かつスタイリッシュに表現し、凝ったミステリー作品が陥る混乱に観る者を巻き込んだりはしない。

伝説のギャング、カイザー・ソゼの正体とは?

一度目は衝撃の結末に驚き、二度目は周到に敷き詰められた布石やアウトラインに舌を巻く。これらを誘導するトリックスターとして、スペイシーが見せるパフォーマンスも優れている(スペイシーは本作で第68回米アカデミー賞の助演男優賞を受賞)。シンガー監督もスペイシーも、近年キャリアに汚点を残すような行為が取り沙汰されたが、本作で披露した彼らの才能を思うと口惜しさが残る。現実の犯罪を擁護する気はないが、この映画が見せてくれた、創意あふれる犯罪は肯定したい。

文=尾崎一男

尾崎一男●1967年生まれ。映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

<放送情報>
ユージュアル・サスペクツ
放送日時:2022年9月26日(月)1:15~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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