若手実力派俳優の一人、菅田将暉のキャリアを振り返り!(『糸』)

卓越した役作りと表現力で観る者を魅了! 
新たな局面に向かう菅田将暉のこれまでとこれから

2022/02/21 公開

日本の俳優をクローズアップする新連載がスタート!記念すべき第1回はいま最も輝いている菅田将暉に迫る。

アート系からエンタメ作品まで幅広く出演し、役者としてのポテンシャルの高さを証明!

2009年に特撮ドラマ「仮面ライダーW」のフィリップ/仮面ライダーW役で俳優デビューし、同年の『仮面ライダー×仮面ライダー W(ダブル)&ディケイド MOVIE大戦2010』で映画初主演を飾った菅田は、人気実力ともに同年代の俳優の中でも一歩先を行く存在であることは誰もが認めるところだろう。

青山真治監督の『共喰い』(2013年)で暴力的な性癖を持つ父親(光石研)に嫌悪感を抱きながら、自分にも同じ血が流れていることに苦悩し、葛藤する主人公の高校生・遠馬を菅田は荒々しいセックスシーンと生々しい芝居で体現。いきなり非凡なる芝居の才能を印象づけ、日本アカデミー賞の新人俳優賞に輝くと、翌年も呉美保監督の『そこのみにて光輝く』で貧しい家で育ったヒロイン・千夏(池脇千鶴)の、無邪気だが粗暴な弟・拓児役に歯をわざと黄色くした説得力のある演技で見せ、高崎映画祭最優秀助演男優賞ほかを受賞した。

そんな菅田が、大きく舵を切ったのは2015年頃のことだ。アート系の作品でいくら素晴らしい芝居をしても、観てくれる人がいなければ話にならない。そう考えた彼は、まずは自分の存在を知ってもらうために、作家性の強い作品はもちろん、メジャーの大作映画やドラマにもどんどん出演しようと決め、それを実践。劇場映画だけでも『暗殺教室』(2015年/羽住英一郎監督)を皮切りに、2016年は『暗殺教室~卒業編~』(羽住監督)、『ピンクとグレー』(行定勲監督)、『ディストラクション・ベイビーズ』(真利子哲也監督)、『二重生活』(岸善幸監督)、『セトウツミ』(大森立嗣監督)、『何者』(三浦大輔監督)、『デスノート Light up the NEW world』(佐藤信介監督)、『溺れるナイフ』(山戸結希監督)に、2017年には『キセキ-あの日のソビト-』(兼重淳監督)、『帝一の國』(永井聡監督)、『銀魂』(福田雄一監督)、『あゝ、荒野 前編&後編』(岸善幸監督)、『火花』(板尾創路監督)と、バラエティに富んだ作品に休むことなく参加。これらすべての作品で異なる輝きを放ち、菅田の役者としてのポテンシャルの高さと引き出しの多さを知らしめたのは周知の通りだ。

菅田の魅力は少年のような無邪気なところがありながらも、ヤンチャそうに見えて実はクレバーなところだろう。自分が演じる役柄について深く考え、その役の生理に即した嘘のない芝居をすることに長けている。もうそれは、生まれ持った才能と言ってもいいほどだ。

『ディストラクション・ベイビーズ』では、ケンカが強い泰良(柳楽優弥)に惹かれながらも自分はいまいちイケてない裕也を、金髪の仲間たちとは異なる縛った黒髪とチャラい言動で表現。『二重生活』では、生活のために自宅でグラフィックやゲームのデザインの仕事をしているヒロイン(門脇麦)の彼氏・卓也を猫背の姿勢と多くを語らない静かな瞳で体現し、『銀魂』では原作コミックそのままのメガネとカツラ、衣裳に助けられながら少々ヘタレの新八を愛すべき人物にしていた。

さらに、『デスノート Light up the NEW world』では、原作ファンでもある菅田がキラ(夜神月/藤原竜也)を信奉するサイバーテロリストの紫苑を演じるにあたり、原作に登場するLの後継者、ニアとメロの要素を参考にしつつ、彼の部屋にあった幾何学折紙の美術から割り出した性格をもとにコスプレマニアというバックグラウンドをイメージ。戦いの場に赴く時の神聖な白い革ジャンを着た、菅田の超スリムな肉体が目に焼きついている人も多いに違いない。

そして、極めつけが『あゝ、荒野』だ。本作でボクサーの新次に扮した菅田は、体重を10kgほど増量した後、炭水化物を抜いて本物のボクサーさながらのバキバキの肉体に改造。バリカン(ヤン・イクチュン)と戦うクライマックスの撮影では4日間にわたって殴り合い、ボクシングで感情を表現したが、それだけではない。ジムのシーンではユルいことを言うバリカンを半ば突き放すことで、本当は彼と繋がりたいと思っている新次の優しさと繊細な心を観る者に届けた。

誰もが共感できる「市井の人」にも完全に染まりきる

菅田はキャラが立った役だけではなく、私たちと同じ「市井の人」を演じるのも上手い。前記の『二重生活』の卓也や『花束みたいな恋をした』(2021年/土井裕泰監督)の麦といったどこにでもいそうな青年を多くの人の共感を呼ぶ人物にしていたし、『何者』ではカラオケで一番先に歌っちゃうような光太郎の陽気なキャラをまんまと成立させてみせた。

二宮和也と共演した『浅田家!』

『浅田家!』(2020年/中野量太監督)の菅田のなりきりぶりもスゴかった。本作で菅田が演じたのは、二宮和也が扮する写真家になった浅田政志が東日本大震災の被災地で出会う、泥だらけになった写真やアルバムの洗浄返却作業をする陽介。撮影前に写真洗浄のやり方を学んだようだが、素朴な風貌と柔らかな声で話す彼はボランティアをしながら行方不明の友人を探す大学院生にしか見えない。実際、この作品を観て、菅田がどこに出ていたのか分からなかった人がいるほど、菅田は陽介だった。

ボランティアの青年、陽介に完全になっていた菅田(『浅田家!』)

中島みゆきの同名のヒット曲をモチーフにした『糸』(2020年/瀬々敬久監督)では、そんな菅田と共演者たちの自然体の芝居に全編にわたって魅了される。本作は平成元年に北海道で生まれた漣(菅田)と葵(小松菜奈)の出会いと別れ、すれ違いと再会を約18年にわたって描く壮大なラブストーリー。2人を襲うリーマンショックや東日本大震災など平成を生きた誰もが実際に体験した出来事も描かれるので、漣と葵の生き様や彼らが出会う人々の営みやあり様に嘘があってはいけない。

だが、そんなハードルの高い芝居が絶対条件のこの作品でも、菅田は21歳から30歳までの漣をしなやかに生きている。葵と幼馴染みの結婚披露宴で8年ぶりに再会する21歳のシーンでは、髪を切り、体重を落としてまだまだ大人になりきれていない漣の少年っぽさを表現。函館空港に実際にある、搭乗客と見送りに来た人がガラス越しに受話器で話すことができる「もしもしコーナー」を使った別れのシーンでは、葵に別れを告げる漣の言葉を絶妙なニュアンスで口にし、その裏にある彼の複雑な想いも観る者に伝えていた。

小松菜奈との共演で、ある男女の約18年にわたるすれ違いと再会を描く『糸』

さらに、本作で初めて娘を持つ役を演じた菅田は、撮影の合間に共演する子役たちと遊んで彼らとのふれあいや距離感を自然なものに。漣が北海道のチーズ工房で働くシーンでは、千葉のチーズ工場でチーズ作りの行程を練習した菅田が慣れた手つきでチーズを扱ったり、イントネーションが難しい北海道弁を流暢に話す姿も目撃できる。そこに嘘がないから、観る者も漣たちの物語に平成の頃の自分を自然に重ねてしまうのだ。

菅田が子役とふれあう様子や距離感も自然(『糸』)

菅田はいまも変わらず走り続けている。自分の存在を知ってもらうためにメジャーの大作映画やドラマにもどんどん出演していくという決意表明をした時は、「オリンピック・イヤーまでが一区切りという感覚がある」と話していたが、東京オリンピックも終わったし、菅田の当初の目的は十分達成されたような気がする。

となると、今度はどこに向かうのか?『糸』の後も以前と変わらず多彩な映画に出演し続けているが、個人的には昨年から、菅田のスタンスにちょっとした変化を感じている。『帝一の國』の永井聡監督が浦沢直樹のコミックのストーリー共同制作者・長崎尚志のオリジナル脚本を映画化したダークエンタテインメント『キャラクター』(2021年)、世界的に大ヒットしたカナダ発の密室サスペンスをリメイクした『CUBE 一度入ったら、最後』(2021年/清水康彦監督)など革新的な作品に出演。

これからの菅田将暉はどこへ向かうのか?(『糸』)

今年も原田美枝子とW主演した、『何者』などの映画プロデューサー・川村元気の初監督作『百花』(9月9日公開)が控えているが、菅田自身も少しずつ自分からアクションを起こし始めているような気がしてならないのだ。それを感じたのは、昨年放送のTVドラマ「コントが始まる」(日本テレビ)と今年の1月より放送中の「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ)の2本の連続ドラマ。前者では有村架純、神木隆之介、仲野太賀、後者では伊藤沙莉や門脇麦といった同世代の俳優たちと共演しているが、これは偶然なのだろうか?

そのキャスティングに菅田の意向が反映されているのかどうかは知らない。ただ、筆者が以前インタビューした時に菅田は、間宮祥太朗、野村周平といった昔からの友だちと『帝一の國』などの表舞台で出会えたことを喜んでいて、「いつか、彼らと一緒に何かを起こしたい」と語っていた。

その時が来たのかもしれない。菅田が同年代の俳優仲間と、自分たちの世代の感覚の作品を次々に産み落とす野望をついに行動に移し始めたのでは?と考えるだけでワクワクする。いずれにしても、毎回私たちを思いがけない驚きで楽しませてくれる菅田将暉の次の一手、次なるサプライズには「期待!」の言葉しかない。

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「Movie Walker Press」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>

放送日時:2022年3月5日(土)21:00~

浅田家!
放送日時:2022年3月11日(金)22:00~、26日(土)21:00~

チャンネル:チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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