撮影時20歳!トム・クルーズの才気が役柄とも重なる『卒業白書』

トム・クルーズの『卒業白書』、ニコラス・ケイジの『バーディ』
今も独自の活躍を続ける2大スターの意外な原点

2022/10/31 公開

トップスター、トム・クルーズの原点が詰まった『卒業白書』

1980年代にスターの地位を築き、2022年の現在、つまり40年間も一線で活躍し続ける――。それは生半可なことではないし、誰もができるわけではない。一方で、トップスターの地位をどのようにキープするか、様々なパターンがある。

80年代以来、トップスターであり続けている人といえば、やはりトム・クルーズだろう。2022年公開の『トップガン マーヴェリック』が異例の大ヒットを記録しているが、その熱狂的人気の要因の一つは、トムの衰えないスターパワーだった。現在に至るまで、「ミッション:インポッシブル」シリーズなど、常に主演作品が話題を集めてきたのがトム・クルーズ。つまりこの40年間、スターとしての陰り、停滞期はまったく感じさせなかったのである。

トムが現在の地位を築いた、いわゆるブレイク作品は36年前の『トップガン』(1986年)で間違いないが、今の彼のキャラクターを語るうえで絶対に外せないのが、その直前の『卒業白書』(1983年)だ。

トム・クルーズが俳優として最初に注目されたのが、1981年の『タップス』。当時19歳だったトムは、陸軍学校の激しやすい性格の生徒役で、終盤では狂気ともいえる演技を披露。その2年後の1983年に、ブラットパック俳優が揃った『アウトサイダー』に参加し、『卒業白書』では初の主演を務めた。

共演したレベッカ・デモーネイとは、本作をきっかけに交際していたことも(『卒業白書』)

トムが演じたのは、大学受験を控えた高校生のジョエル。勉強に勤しむ毎日とはいえ、年齢が年齢だけに、欲望の塊で妄想は膨らむばかり。両親が旅行で留守にするのをいいことに、ジョエルは友達も誘ってここぞとばかりにハメを外すが…という、危ういネタもたっぷりの王道の青春映画だ。原題は『RISKY BUSINESS』(=リスクの高い仕事)ということで、ジョエルは留守宅でとんでもない金儲けを思いつき、それが痛快なエンディングにもつながる。ポルシェの車やレイバンのサングラスなどが印象的に使われ、いい意味での能天気さが充満する、いかにも80年代らしい一作だが、密かに資本主義への批判も込められていたりして、今改めて観るとシニカルな味わいもする。

この『卒業白書』は、ジョエルがワイシャツとブリーフ姿で踊るシーンが作品でも最高の見せ場となり、後に多くのオマージュやパロディを生んだ。トムのキャリアを振り返るうえで欠かせない名シーンでもある。監督は「ロックに合わせて自由に踊れ」と指示したそうで、これは完全にトムの即興。つまり彼の瞬発的才能の、最初の、そして最高のサンプルになったと言っていい。

ワイシャツ&ブリーフ姿のダンスシーンはトムの即興!(『卒業白書』)

撮影時20歳だったトム・クルーズは、怖いもの知らずの豪快さ、溌剌さで魅了するが、こうしたジョエル役の特徴こそ、トムのキャリアに重なってしまう。瞬間的なひらめきと、やりたいことへの野心、そしてビジネスでの思わぬ才能…。『トップガン』のマーヴェリック役以上に、この『卒業白書』にトム・クルーズの原点が詰まっているのだ。

再評価が高まるニコラス・ケイジのキャリア初期の傑作『バーディ』

そして、『卒業白書』のジョエル役のオーディションを受けていた一人が、ニコラス・ケイジである。

若者らしいエネルギッシュさがある一方、複雑な心情を抱えたアルをニコラス・ケイジが好演(『バーディ』)

トム・クルーズが1961年生まれで、ニコラス・ケイジは1964年生まれ。映画で活躍し始めたのは80年代初頭と、ほぼ同時期。共にビッグスターではあるが、常に大ヒット作でトップの地位をキープしていたトムと違って、ニコラスの俳優人生は山あり谷ありという印象だ。

巨匠フランシス・フォード・コッポラの甥というハリウッドのサラブレッドで、『リービング・ラスベガス』(1995年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞。『フェイス/オフ』(1997年)や「ナショナル・トレジャー」シリーズなどヒット作も数多い。しかし、ニコラスは王道のトップスターというより、クセ者俳優としての側面も強いうえに、私生活では趣味が高じて多額の借金を抱えるなど問題行動も多い人。そのためか、40代半ばくらいから、いわゆるB級テイストの作品にも出演し、演技も酷評されたりして、スターとしての地位が揺らぐ憂き目にあったりも。そんな作品群もファンには「ニコケイ映画」と偏愛されてきたが、ここ数年、本格俳優として復活の兆しを見せている。

飼っていた豚が盗まれたことで復讐の鬼と化す『PIG/ピッグ』(2020年)や、自身をセルフパロディとして演じたコメディ『マッシブ・タレント』(2022年)などで、ニコラスはその演技力が再び絶賛を受けているのだ。明らかに俳優としての新たな好調期で、続々と注目作品のオファーが舞い込んでいる状況。もともと独特の存在感と演技力を持ち合わせているので再評価は納得だが、その礎を作ったのがデビュー間もない80年代で、なかでも大きな飛躍のきっかけになった作品が『バーディ』(1984年)だ。

鳥になりたいと願う親友バーディを、アルは支え続ける(『バーディ』)

ベトナム戦争に従軍したことで精神を病み、入院するも心を頑なに閉ざすバーディ。一緒にベトナムへ行った親友のアルが、バーディを立ち直らせようとするヒューマンドラマ。鳥になることを夢見て奇妙な行動をとるバーディ(マシュー・モディーン)に対し、ニコラスが演じるアルはストーリーの語り部で、自身も心に深い傷を抱えつつ、友人への献身的な言動で感動を誘いまくる。真摯でエモーショナルなニコラスの演技に、近年の出演作でも失われていない彼の原点を発見できることだろう。アルに感情移入しながら迎える『バーディ』のラストは、いろいろな意味で驚きの名シーンになっている。また、当時としては最新のカメラシステムで撮影したバーディが夢で空を飛ぶシーンなど、映像的にも見どころが多い作品。カンヌ国際映画祭では審査員特別グランプリに輝いた。

バーディを演じるマシュー・モディーンも、現在も活躍を続けている(『バーディ』)

それまで『ランブルフィッシュ』(1983年)や『コットンクラブ』(1984年)と、叔父コッポラの監督作で重要な役を演じてきたニコラスは、アラン・パーカー監督の『バーディ』で才能が認められ、『ペギー・スーの結婚』(1986年)、『月の輝く夜に』(1987年)などで個性と実力にさらに磨きをかけ、順調にキャリアを重ねていくことになる。

トム・クルーズとニコラス・ケイジ。ともに80年代でスターになるも、それぞれ独自のスタイルで俳優人生を築いていった2人のスター。そのキャリアを振り返りながら、原点となる作品を観れば、より感慨は深まることだろう。

文=斉藤博昭

斉藤博昭●1963年生まれ。映画誌、女性誌、情報誌、劇場パンフレット、映画サイトなど様々な媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品。

<放送情報>
卒業白書
放送日時:2022年11月7日(月)15:30~、18日(金)13:30~
チャンネル:ムービープラス

バーディ [R15相当]
放送日時:2022年11月21日(月)23:45~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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