菅原文太が「仁義なき戦い」から一転、スケベで短気だが人情深いトラック運転手に(『トラック野郎 御意見無用』)

一度ハマったら抜け出せない!豪快なアクションとコメディの大爆走&大爆笑
『トラック野郎』は「昭和」の良さが詰まったプログラムピクチャーの一番星!

2021/11/29 公開

破天荒だが魅力あふれるキャラクターに夢中になる

「ギンギラギンの満艦飾(まんかんしょく)トラック一番星号が日本列島を大爆走する――。涙と笑い、義理と人情、下ネタとお色気、アクションとメロドラマが渾然一体となった奇跡のエンターテインメント、大衆娯楽映画の金字塔『トラック野郎』」――鈴木則文・著『トラック野郎風雲録』(2010年初版/国書刊行会)帯コピーより。

ある意味、これほど「昭和」の良さが詰まった映画シリーズは他にないかもしれない。東映が1975年(昭和50年)から1979年(昭和54年)にかけて放った痛快無比な全10作。二本立て興行用のプログラムピクチャーとして、志穂美悦子主演の『帰って来た女必殺拳』(1975年)やジャッキー・チェン主演の『ドランクモンキー 酔拳』(1979年)などと併映で公開されつつ、そのすべてが年間邦画配給収入のベスト10に入るほどヒットした。

シリーズには、菅原文太と愛川欽也のほか、梅宮辰夫や千葉真一ら豪華キャストがゲストで登場(『トラック野郎 天下御免』)

主演は菅原文太(1933年生~2014年没)。同じ東映での「仁義なき戦い」シリーズ(1973~1974年)で大ブレイクした彼が、続く「トラック野郎」では一転。スケベでおっちょこちょいで短気、だが人情には厚い長距離トラック運転手に扮し、破天荒なコメディ演技で爆笑の渦を巻き起こした。役名は「一番星桃次郎」こと星桃次郎。このネーミングでも判るように、1969年から松竹で始まった「男はつらいよ」シリーズの車寅次郎が意識されている。渥美清の寅さんが、どこか品や美学を湛えたストイックな佇まいなのに対し、桃次郎は性欲剥き出しで、ついでに便も近い。ひらすら下世話な魅力にあふれたキャラクターだ。

相棒の「やもめのジョナサン」こと松下金造役は、愛川欽也(1934年生~2015年没)。「やもめ」(配偶者をなくした独身者)と称しつつ、実はバリバリの既婚者で、川崎市川崎区の自宅には肝っ玉母さんの妻・君江(春川ますみ)とたくさんの子どもたち(当初は7人だったが、まもなく養子も含めて10人に増える)が待っている。当時、愛川欽也はTBSラジオの深夜番組「パックインミュージック」のパーソナリティーなどで活躍し、「キンキン」の愛称で高感度な若者たちを中心に絶大な支持を得ていた。そもそも「トラック野郎」の始まりは、東映で急遽中止となった新作のピンチヒッターとして、愛川が持ち込んだ企画が採用されたものであることは有名である。1960年代、愛川が納谷悟朗と共に主演の吹替え声優を務めたアメリカのテレビシリーズ「ルート66」が作品のヒントになった。
また役名・松下金造の名字の「松下」は、愛川が1972年出演した松下電器産業(現・パナソニック)のラジカセのCMでバズった台詞「あんた、松下さん?」にちなんだもの。松下とはもちろん同社創業者の松下幸之助。このように同時代の流行・風俗もどんどん作品内に取り入れていた点も「トラック野郎」シリーズの重要な特徴だ。

女性トラッカー・紅弁天を演じた八代亜紀は「トラック野郎の女神」として話題に(『トラック野郎 度胸一番星』)

肩の力を抜いて観られる泥臭さと豪快なトラックアクションのバランス

監督は10作すべて、鈴木則文(1933年生~2014年没)。『温泉みみず芸者』(1971年)、『エロ将軍と二十一人の愛妾』(1972年)、『ドカベン』(1977年)、『忍者武芸帖 百地三太夫』(1980年)、『伊賀野カバ丸』(1983年)、『パンツの穴』(1984年)等々、ポルノ、忍者、アクション、コメディ他もろもろ、娯楽ジャンルなら何でも来いの「無思想無節操」を信条とした伝説の凄腕職人だ。また初期段階の共同脚本や助監督を務めた右腕的役割として、のちに『Wの悲劇』(1984年)などを監督する澤井信一郎(1938年生~2021年没)が就いていた。

行く先々でマドンナに一目惚れするが、ほぼ振られてしまう…(『トラック野郎 爆走一番星』)

お話は基本的にワンパターン。菅原文太と愛川欽也が歌う主題歌「一番星ブルース」(作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童)が流れ、ド派手なデコトラ(デコレーショントラック)に乗った桃次郎とジョナサンが登場。まもなく現われる美女――「マドンナ」に桃次郎が一目惚れし、突然「僕」という一人称のマジメキャラに(表向きだけ)豹変。やがて珍騒動が巻き起こる(この作劇も『男はつらいよ』を踏襲している)。シリーズ後半になると多少の変更やアレンジも加えられるが、主軸はこの繰り返しである。

以下に全10作のタイトルをざっと紹介しておこう(カッコ内はマドンナ役の女優)。

第1作『御意見無用』(中島ゆたか) 1975年8月30日公開
第2作『爆走一番星』(あべ静江) 1975年12月27日公開
第3作『望郷一番星』(島田陽子) 1976年8月7日公開
第4作『天下御免』(由美かおる) 1976年12月25日公開
第5作『度胸一番星』(片平なぎさ) 1977年8月6日公開
第6作『男一匹桃次郎』(夏目雅子) 1977年12月24日公開
第7作『突撃一番星』(原田美枝子) 1978年8月12日公開
第8作『一番星北へ帰る』(大谷直子) 1978年12月23日公開
第9作『熱風5000キロ』(小野みゆき) 1979年8月4日公開
第10作『故郷(ふるさと)特急便』(石川さゆり/森下愛子) 1979年12月22日公開

鈴木監督イチオシの第3作『望郷一番星』のマドンナは当時23歳の島田陽子

ハッキリ言って、どれも面白い(特に前半5作は粒ぞろい)。ただ、もし一本だけオススメを選出するならば、鈴木則文監督が「イキの良さと面白さではこの作品が随一だと思われる。自画自賛。許されよ」(『トラック野郎風雲録』より)と記している第3作『望郷一番星』が歴代ベストにふさわしいのではないか。

主な舞台が北海道になるだけあって、風景も作風もとりわけ雄大(桃次郎のライバル役となる梅宮辰夫が「吠えろ!オホーツク」と書かれたデコトラで登場)。冒頭シーンから、松鶴家千とせが「わかるかなぁ、わかんねえだろうなぁ」と持ちネタを披露したり、釧路の港食堂の店員役に「海原千里」時代の上沼恵美子が扮していたり、競走馬のハイセイコーや、都はるみも特別出演。ゲスト関連も非常に豪華なのだが、最大の見どころはトラックの豪快なアクションだ。

クライマックスで桃次郎の運転するデコトラがボロボロの吊り橋を渡る。類似したシーンが、ウィリアム・フリードキン監督の『恐怖の報酬』(1977年)――アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督による1953年の名作のリメイク版で世界的に話題になったが、何を隠そう『望郷一番星』のほうが先なのだ!

シリーズ後半になると、当時のSFブームに露骨に便乗した第7作『突撃一番星』(若き日の樹木希林が怪演)など珍作・奇作ゾーンにも寄っていくが、いずれにせよ一流の人材が全力でくだらないことをやっている様に、いま観ると驚かされる。とことん肩の力を抜いて楽しめる、大らかで人懐っこく、良い意味で泥臭い「昭和」ならではのロードムービー。きっと一度ハマったら抜け出せない!

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
トラック野郎 御意見無用
放送日時:12月5日(日)20:00~、7日(火)13:00~

トラック野郎 爆走一番星
放送日時:12月8日(水)13:00~、28日(火)20:00~

トラック野郎 望郷一番星
放送日時:12月9日(木)13:00~、13日(月)11:00~

トラック野郎 天下御免
放送日時:12月10日(金)13:00~、18日(土)14:00~

トラック野郎 度胸一番星
放送日時:12月11日(土)13:00~、25日(土)15:00~

チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

※シリーズ6~10作目は2022年1月に放送予定

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