この世とあの世、夢と現実が溶け合う世界にいざなう
CLAMP×蜷川実花による異世界ファンタジー『ホリック xxxHOLiC』
2023/12/25 公開
始まりから20年経った今もシリーズが続く壮大な物語
1989年の商業デビュー以来、30年以上にわたって幅広いジャンルで創作活動を続け、国内外でカリスマ的な人気を誇る創作集団CLAMP。数多く生み出されたCLAMP作品の中でも、とりわけ熱烈なファンが多いベストセラーコミック「xxxHOLiC」は、これまでにアニメ、ドラマ、舞台など様々なメディアで展開されてきた大ヒット作だ。
写真家としても活躍する蜷川実花監督が原作コミックに惚れ込み、神木隆之介と柴咲コウのW主演で映画化した『ホリックxxxHOLiC』(2022年)は、「xxxHOLiC」のメディアミックスにおいて初の映画化作品というだけでなく、そもそもCLAMPの全作品の中で初めての実写映画である点でも特別な存在といえる。
人の心の闇に寄り憑く「アヤカシ」が視えてしまう霊感体質の高校生・四月一日君尋(わたぬき・きみひろ/神木隆之介)。その特殊な能力を捨て、普通の生活を送りたいと願う彼は、ある日、一羽の蝶に導かれ、不思議な屋敷にたどり着く。そこは、壱原侑子(柴咲コウ)と名乗る妖しく美しい女性が主人を務める「願いを叶える店」。彼女は四月一日の願いを叶える代わりに、一番大切なものを差し出すように囁くのだが…。
CLAMPのメンバーは、いがらし寒月、大川七瀬、猫井椿、もこなの女性4名。原作コミック「xxxHOLiC」は、2003年から2010年まで「週刊ヤングマガジン」で連載された後に、「別冊少年マガジン」へ移籍し、2011年まで連載された。さらに続編となる「xxxHOLiC・戻」が、2013年から「週刊ヤングマガジン」にて連載開始(現在は休載中)。単行本は「xxxHOLiC」全19巻、「xxxHOLiC・戻」既刊4巻と、始まりから20年経った今もシリーズが続いている壮大な物語だ。
ちなみに映画では描かれていないが、原作「xxxHOLiC」は、同時期に「週刊少年マガジン」で連載されていた「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」と相互にリンクし合う表裏一体の関係。それぞれ物語も作画もまったく異なる2つの作品を、異なる週刊コミック誌で、同時に連載するというスタイルは前代未聞であり、両方の作品を読むことで、重層的な世界が広がっていく奥深い面白さにファンは夢中になった。
五感で鑑賞するインスタレーション・アート
CLAMPの描く異世界ファンタジーは、美麗なビジュアルも大きな魅力。映像美にこだわり抜く蜷川実花監督が、この独特の作画表現に惹かれ、映画化を熱望したのも無理はない。CLAMPは他ジャンルのクリエイターとのコラボレーションにも積極的で、メディアミックスではスタッフとして深く関わることもあるが、本作は蜷川監督を信頼して、すべてお任せしたとのこと。それゆえに、本作は原作を忠実に描いた映画というよりも、監督自身の感性でリクリエイトされた蜷川ワールド色が強い作品に仕上がっているのが特徴だ。
アヤカシが視える孤独な高校生・四月一日君尋を演じるのは、神木隆之介。不思議な力を持つミステリアスな店主・壱原侑子役に柴咲コウ。四月一日のクールな同級生・百目鬼静(どうめき・しずか)役にSixTONESの松村北斗。同じく四月一日の同級生で、謎を秘めた美少女・九軒(くのき)ひまわり役に、蜷川作品は『Dinner ダイナー』(2019年)に続き2作目の玉城ティナ。そして、映画版最大の敵・女郎蜘蛛役に吉岡里帆。さらに映画オリジナルのキャラクターである女郎蜘蛛のしもべ・アカグモ役に磯村勇斗と、存在感のある個性豊かな豪華キャストが集結した。
四月一日が侑子と出会い、成長していく物語という原作の太い軸は残しながら、女郎蜘蛛のキャラクター設定や、高校生3人の関係性、後半のオリジナル展開など、映画ならではのアレンジもたっぷり。原作のキャラクターたちがハイテンションでコミカルな面を見せるのに対し、映画版の彼らは、かなりシリアスでダークな雰囲気を纏っている。
とはいえ、作品全体のトーンは違っても、原作へのリスペクトは画面の随所に感じられる。不思議な店に迷い込んだ四月一日が、キセルを手に紫煙をくゆらせる艶めかしい美女、侑子と初めて出会う冒頭のシーンから、畳みかけるように原作の美しいカラー画が次々に映し出されていくタイトルバック。原作のエッセンスがギュッと詰まったビジュアルには、オープニングから一気に魅了されてしまう。
侑子のゴージャスな衣装が登場シーンごとに変わるのも、原作の設定と同じく大事なポイント。花魁風の着物ドレス、中国の京劇風、ベリーダンサー風など、古今東西のあらゆる要素を取り入れたデコラティブなファッションとヘアメイクは見どころの一つだ。もともと、蝶を花押とする侑子にとって、蝶や花は特別なモチーフ。これらは蜷川実花が繰り返し撮影してきたアイコン的モチーフとも重なっていて、両者の親和性の高さが見て取れる。
侑子のきらびやかな装いにふさわしい場所として創り上げられた店の美術セットも豪華絢爛。藤の花で覆われた店の入り口、藤棚と蓮の池に面したオリエンタルな丸窓の縁側、女郎蜘蛛とのラストバトルが繰り広げられる幻想的な空間など、薄紫色の花があふれんばかりに咲き乱れるシーンは、むせ返るような甘い香りが漂ってくる錯覚に陥るほど。また、原作では黒いドロッとした煙状のものとして描かれていたアヤカシの邪悪な気配や、映画版の透き通った羽を持つクリスタルな蝶がVFXで見事に具現化されている。
名言が多いことでも知られるCLAMP作品。特に侑子の発する言葉の一つ一つは、どれも座右の銘にしたくなるものばかりで、映画にも数々の名セリフが登場する。「与えられたものには、すべからく、それに見合うだけの代償がいるの。何かを得るには対価が必要。それが、この世界のルール」という言葉にはハッとさせられるし、「この世に偶然なんてない。あるのは必然だけ」を口グセにしながらも、「未来はそれぞれの選択の先にある。選択することで変えられる運命もあるわ」という言葉には勇気をもらえる。
「俺、自分はどうなってもいいんです。だからもう誰も傷つけたくない」と言う四月一日を、侑子が「あなたはまだわかってない。傷ついたあなたを見た人が、どう傷つくか」と、たしなめるシーンも印象深い。自己犠牲の精神はヒロイックでもなんでもなく、相手をさらに傷つけてしまうという真理は、CLAMP作品に一貫して込められたメッセージでもある。
ビジュアルのインパクトを増幅する、過剰なほどのボリュームで響き渡るエレクトロニック音楽も相まって、観ているうちに、五感で鑑賞するインスタレーション・アートの中に入り込んでしまったような感覚を味わえる本作。この世とあの世、夢と現実が溶け合った、蜷川実花版の極彩色の「xxxHOLiC」ワールドに身を委ねてみてほしい。
文=石塚圭子
石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、様々な世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。
<放送情報>
ホリック xxxHOLiC
放送日時:2024年1月15日(月)7:45~、28日(日)10:25~
チャンネル:チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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