若手随一の演技派となった柳楽優弥のこれまでを振り返る(『包帯クラブ』)

カンヌ受賞の栄光の呪縛を糧にして
個性あふれる演技派の道を進む柳楽優弥

2023/08/28 公開

『銀魂2 掟は破るためにこそある』(2018年)では新選組の鬼の副長・土方十四郎をカッコよく決めながらも、妖刀「村麻紗」による第二の人格…ヘタレの「トッシー」をコミカルに怪演!『泣くな赤鬼』(2019年)では末期ガンで余命半年のかつての高校球児をシリアスに熱演し、『ザ・ファブル』(2019年)では裏社会で生きるアドレナリン全開の危険な男になりきり、アクションにも挑戦。さらに、ディズニープラスのサイコスリラー・ドラマシリーズ「ガンニバル」では狂気の世界に誘われていく主人公の警官に生々しい芝居で命を吹き込み、観る者を震撼させた柳楽優弥。硬軟の多彩なキャラクターを演じ分けながら快進撃を続ける彼は、誰もが認める若手随一の「カメレオン俳優」だ。

『誰も知らない』での演技が絶賛され、当時14歳にして天才俳優のイメージが定着

そんな輝かしい柳楽のキャリアのスタートは、是枝裕和監督が2004年に撮った『誰も知らない』。本作でシングルマザーの母親(YOU)に捨てられ、父親の違う弟と妹の面倒を見ながら必死に暮らす長男を演じた当時14歳の彼が、第57回カンヌ国際映画祭で、史上最年少で日本人初の男優賞を受賞したのは誰もが知るところ。

『誰も知らない』で当時14歳にしてカンヌ国際映画祭男優賞に輝いた

だが、その栄誉がその後の彼を苦しめ、俳優人生を狂わせることにもなった。是枝監督は、柳楽をはじめとした子どもたちの演技が演技に見えないようにするため、彼らにはあえて台本を渡さず、口でセリフや動きを伝える演出を徹底。今では有名な是枝監督のこの手法によって、ドキュメンタリーと見間違うような子どもたちのリアルな表情が焼きつけられ、柳楽の強い眼差しも彼の演じた長男の狂おしい想いや決意を代弁。世界中の映画ファンの心を大いに揺れ動かした。

だが、型にはめるような「演出をしない」是枝作品の芝居で世界の映画賞の頂点を極め、天才俳優のイメージを勝手に植えつけられてしまった柳楽は、台本の読み方もわからず、監督の演出を受けながらの芝居も経験したことがなかったため、いきなり壁にぶち当たる。周りが過剰な期待を寄せるなか、何をどうしたらいいのかもわからない彼は一人苦悩し、プレッシャーに押しつぶされそうになった。タイトルは挙げないが、初期の作品は現場にいるのもしんどくて、一時はこの世界から距離を置くようにバイトに精を出していた時もあったくらいだ。

母親に捨てられ、父親の異なる弟、妹たちの面倒を見る少年を等身大で演じた(『誰も知らない』)

そんな柳楽が自らの輝きをわずかに取り戻したように見えたのが、天童荒太の同名のベストセラー小説を『明日の記憶』(2006年)や「20世紀少年」3部作などの堤幸彦監督が映画化した2007年の『包帯クラブ』。柳楽が本作で演じたのは、心に傷を持つ人たちに歩み寄り、彼らが傷ついた場所に包帯を巻くことでその心の傷を癒す「包帯クラブ」の活動を続けている関西弁の少年・ディノ。堤監督を唸らせた奇妙な衣装とおかしな関西弁でディノをのびのびと快演し、石原さとみや貫地谷しほりらが演じたクラブのメンバーの中でも、とりわけ異彩を放っていた。

心に傷を持つ人たちに歩み寄り、傷ついた場所に包帯を巻くクラブのメンバー、ディノをのびのびと快演!(『包帯クラブ』)

その後、柳楽自身も多くのインタビューで語っているように、『悪人』(2010年)、『怒り』(2016年)などで知られる李相日監督の『許されざる者』(2013年)で完全復活を遂げる。クリント・イーストウッドが監督&主演したアカデミー賞作品賞、監督賞ほかに輝く1992年の名作を明治初期の北海道に舞台を移して映画化した本作の彼は、渡辺謙が演じる十兵衛と柄本明扮する金吾と一緒に旅に出る、アイヌの出自を持つ粗野な若者・五郎を体現。『誰も知らない』の手法とは真逆にある李監督の細やかな演出と同時に教わった芝居のアプローチ、いずれ劣らぬ演技派たちとの共演で一皮剥けた柳楽が、口の減らない酔っぱらいをとんでもない迫真さで怪演し、観る者を圧倒したのは記憶に新しい。

俳優としての進む道を模索し、振り切った演技で観る者を圧倒

その勢いと自信は翌年の『闇金ウシジマくん Part2』(2014年)で演じた最底辺の労働環境で働く変態ストーカー役にもくっきり。門脇麦が演じた女性の家に「助けにきたぞ~!」と言って入り込む気持ちの悪いキャラを、ファンを失いかねない振り切った芝居で爆演し、山田孝之扮するウシジマくんにも負けない強烈なインパクトを残した。

かと思えば、2020年の『HOKUSAI』では、世界一有名な日本人アーティスト=葛飾北斎の青年期を、晩年の北斎に扮した田中泯とのW主演で体現。稀代の版元・蔦屋重三郎(阿部寛)にその才能を認められながらも、先輩絵師の喜多川歌麿(玉木宏)に「オマエが描く女性には色気がない」とコケにされ、後輩絵師の東洲斎写楽(浦上晟周)にもバカにされた孤高の天才絵師の苦悩と葛藤を等身大の芝居で表現していて息をのむ。

筆を2本持って使い分ける「ぼかし」の技法をはじめとした絵描きの技を自分のものにする一方、あまり資料が残っていない北斎の青年期を、「彼はどうやって海や波が自分の得意分野だということに気づいたんだろう?」という素朴な疑問から湧き上がった自らの感覚を信じ、絵を描くこと=生きるという深い境地に達した男として見せ切った。北斎の晩年の肉筆画「男浪」「女浪」を田中と並んで描くクライマックスでは、柳楽が覚醒させた力強い北斎を目撃することになるのだ。

「富嶽三十六景」など生み出した浮世絵師、葛飾北斎の青年期を演じた『HOKUSAI』

こうやって振り返っただけでも、柳楽優弥の振り幅の広さがわかるはずだ。この後も、いきなり死んでしまう主人公のホストを演じたWOWOWの幽霊コメディ「オレは死んじまったゼ!」(9月1日放送開始)、同世代の盟友=岡田将生、松坂桃李と共演した2016年の人気ドラマの映画化『ゆとりですがなにか インターナショナル』(10月13日公開)など、注目作が続々待機中!次はどんな柳楽優弥を見せてくれるのか?何をやらかしてくれるのか?常に私たちの想像の斜め上を行く出演作やキャラで楽しませてくれる彼には期待しかない!!

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>
誰も知らない
放送日時:2023年9月2日(土)13:00~

包帯クラブ
放送日時:2023年9月2日(土)15:25~

HOKUSAI
放送日時:2023年9月2日(土)17:25~
チャンネル:WOWOWシネマ

HOKUSAI
放送日時:2023年9月14日(木)10:45~

誰も知らない
放送日時:2023年9月14日(木)13:00~

包帯クラブ
放送日時:2023年9月14日(木)15:30~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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