アメリカ犯罪史を代表する未解決の「ゾディアック事件」を映画化した『ゾディアック』

実在の未解決連続殺人事件を映画化
『ゾディアック』に見るデヴィッド・フィンチャーの新境地

2024/03/04 公開

1968年12月20日、米カリフォルニア州ヴァレーホにあるレイク・ハーマン道路脇の駐車場で、2人の高校生の遺体が発見された。17歳の男子学生は至近距離で頭を撃たれて死に至り、16歳の女子学生は背中を5発撃たれた末に力尽きていた。直接の目撃者はいなかったが、地元住民が犯罪現場を発見する直前、この地域で数台の不審な車を目撃したという。

この痛ましい事件を皮切りに、1968年から1969年までの間に北カリフォルニアで、少なくとも5人を殺害したと考えられている正体不明の連続殺人犯がいた。なぜ、これら一連の犯罪が一人の仕業と断定されたのか?それは容疑者自らが、警察と大手新聞社に犯行声明文を送りつけてきたからだ。そこには警察と当人しか知り得ない事件の情報が記されており、そして2度目の犯行声明文において、当該人物は異様な名乗りを挙げたのである。

編集長殿、こちらはゾディアックだ。

自らを「ゾディアック」と名乗る連続殺人犯の正体とはいったい…

アメリカ犯罪史に残る「ゾディアック事件」をリアリティある視点で映像化

アメリカ犯罪史を代表する未解決連続殺人として知られる「ゾディアック事件」は、社会や様々な文化的事象に大きな影響を与え、映画もその例外ではない。古くは1971年のクリント・イーストウッド主演による刑事アクション『ダーティハリー』に出てくる無差別狙撃犯スコーピオンのモデルとなったり、最近では『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022年)に登場するスーパーヴィランのリドラーが、この忌まわしき「ゾディアック事件」の犯人像をヒントにしている。

こうした関連作品において、最も有名なのが2007年に公開された『ゾディアック』だ。そのものズバリのタイトルだが、監督は『セブン』(1995年)で連続殺人鬼の恐怖を描き、サスペンス映画の世界において非凡な才能を示したデヴィッド・フィンチャーが担当。この事件を報道の側から追い続けたサンフランシスコ・クロニクルの風刺漫画家、ロバート・グレイスミスのノンフィクション小説と実際のケースファイルに基づき、この悪名高い未解決事件の謎を、独自の視点から解き明かしていく。

なによりフィンチャーにとって、同作は自身が初めて手掛ける「実在した事件」の映画化であり、そのためゾディアックの殺人事件に関する独自の調査と研究に、おそよ18か月もの歳月を費やした。また創作のクライムスリラーである『セブン』はバロック調の様式で世界観をグラフィカルに描いたが、本作ではリアリティをとことんまで重視し、あくまで目撃証言や事実をベースとする演出がなされている。

加えて物語はゾディアックの尻尾をつかもうとしている人々に焦点を当て、彼らのパズルを解くような挑戦的な取り組みは、事件に対する最大限の関心を観る者に与え、その知的好奇心を満たしていく。さらに、ドラマの当初は理由なき殺人でサスペンスを巧みに構築しながら、地域の恐怖からアメリカ全体の恐怖へと次第にエスカレートし、我々はより深まっていく謎を目の当たりにすることで、事件の底知れぬ不気味さと恐怖に打ち震えることになる。

「ゾディアック事件」の担当刑事を演じるマーク・ラファロをはじめ人気俳優たちが出演

事件当時を再現した製作陣の執念を感じる造り込まれた世界観

『セブン』そして『ファイト・クラブ』(1999年)と、凝った視覚スタイルを持つ作品を手掛けてきたフィンチャーだが、本作も一見して写実的だと思われる要素が、デジタルのワークフローとCG環境で構築されている。

1960年代後半から70年代におけるサンフランシスコの街並みをはじめ、プラクティカルに創造されたと思える流血のシーンでもCGが用いられ、誰もが違和感を覚えることなく、その時代と現場に入り込めるような視覚的アプローチがなされている。こうした試みはフィンチャー映画のベースとして現在も彼の諸作の根幹をなし、最新作『ザ・キラー』(2023年)においても、画面上に視認できるもののほとんどがデジタル生成によるプレートだったりと驚きを禁じ得ない。

風刺漫画家や新聞記者、刑事らの視点で「ゾディアック事件」をひも解いていく

「ゾディアック事件」は2024年の現在においても未解決の状態であり、納得できる結末を与えられないまま映画は終わりを迎える。だが、先述したような監督以下クルーたちの執念に満ちた造り込みは、真実以上の示唆を観る者に与えるのだ。

文=尾崎一男

尾崎一男●映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

<放送情報>
ゾディアック
放送日時:2024年3月16日(土)23:05~、25日(月)16:15~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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