早世の大スター、チャドウィック・ボーズマンが刑事役で魅せる
闘病の中で作り上げられた『21ブリッジ』とは?
2023/01/05 公開
チャドウィック・ボーズマンが43歳の若さで亡くなってから2年になる。舞台俳優としてキャリアを始め、『42 ~世界を変えた男~』(2013年)や『ジェームス・ブラウン ~最高の魂を持つ男~』(2014年)などで主演を務めて絶賛を集めつつ、『ブラックパンサー』(2018年)でスターとしての名を不動のものにした。
2022年11月に公開された『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』はその不在を作り手も観客も、誰もが痛いほどに噛みしめる作品となった。前作は、当時マーベル・スタジオがようやく手掛けたアフリカ系俳優主演の映画であり、同スタジオ史上最高の興行収入を記録(当時)し、批評の面でも高い評価を得た、まさに記念碑的作品だった。ボーズマンの逝去後、その代役を立てることは検討さえされなかったといい、彼の存在の大きさがうかがい知れる。そんな唯一無二の俳優が亡くなる前年に公開されたのが(日本では2021年公開)、今回取り上げる『21ブリッジ』だ。
警官殺しの強盗犯を追い詰めるため、マンハッタン島を完全封鎖!
ボーズマンが演じるのはニューヨーク市警の刑事、アンドレ・デイヴィス。極めて優秀だが、これまで任務中に複数の犯罪者を射殺したとして内務調査班から非難を受けてもいた。ある晩、2人の元軍人(演じるのはテイラー・キッチュとステファン・ジェームズ)が麻薬の密売人から50kgのコカインを強奪。偶然現場を訪れた警官7人を銃撃戦の末に射殺して逃走する。
事件の捜査を命ぜられたデイヴィスは、犯人がまずはコカインを金に換えるだろうと踏む。ニューヨークでそれが可能なのは事件の起こったマンハッタン島だけだ。刑事はその一帯や島と外部とをつなぐ21本の橋と4つのトンネル、3本の川の即時封鎖を要請。事件が発生した24時過ぎから朝の5時までをタイムリミットに、正体不明の逃走犯を追う。
100分の尺でまとめられた本作は、物語をその導入から手際よく伝える。同じく刑事だったが殉職した父の衣鉢を継ぎ、仕事に邁進する主人公。そのために周囲との軋轢もあり、また認知症の老母を抱えてもいる。その一方でまた訳のありそうなコカイン強奪犯の2人組、彼らに部下を殺されて怒り心頭のNY市警85分署のマッケナ署長(J・K・シモンズ)と、デイヴィスとコンビを組むことになった麻薬課の刑事バーンズ(シエナ・ミラー)。主要な登場人物の紹介が済むと同時に、タイトル通り、21本の橋が通行止めとなってアクションが動き出す。
チャドウィック・ボーズマンの活躍をもっと見たかったと思わせるアクション活劇
マンハッタンという閉鎖空間を舞台に展開する、深夜から夜明けまでの物語。もちろん主人公が世界を股にかけて飛び回ることはなく、飛行機やヘリからぶら下がることもない。常に自動車か徒歩で移動、わずかな手がかりから犯人の素性を割り出して、これを追い詰めていく。
本作のプロデューサーを務めたのは、アンソニーとジョーのルッソ兄弟。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)で見事な仕事ぶりを見せ、その後言わずと知れた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)と『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)の二連作をまとめ上げた(ボーズマンには前者の現場で『21ブリッジ』への出演を打診したという)。
2022年にはNetflix配信の『グレイマン』を監督。こちらは21世紀版『コマンドー』(1985年)といった趣で、まさに主人公が世界中を飛び回って無茶な大活躍を繰り広げる大作だったが、製作担当の『21ブリッジ』では打って変わってなんともギュッと狭く、タイトに締まっている。
脚本のマシュー・マイケル・カーナハンは2007年の実録アクション『キングダム/見えざる敵』を手掛けており、これも限られた時間の中でサスペンスが盛り上がる渋い佳作だった。同作然り、今回の『21ブリッジ』然り、仕事終わりにふらりと映画館に立ち寄って観て、何か確かな満足感を得て帰る類の映画だ。またはやはり仕事の合間につい一気読みしてしまった刑事小説のような、そんなサイズ感が悪くない。
大小のどんでん返しが様々にあって、正直言えばある程度予想もついてしまうのだが、それらをいかにも衝撃展開としてぶつけてこないあたりもいい。この手のそこそこに大人っぽい娯楽映画を、もっと劇場でなんとなく観たいものだと思う(なんとなく、というあたりを強調しておきたい)。
多少ネタを割らせていただくと、事件にはどうやら警察内部の汚職が絡んでいるらしいことが物語のかなり早い段階で示唆される。こうして警察組織の腐敗が描かれること、ニューヨークが舞台であること、それになによりボーズマン扮する主人公刑事の生真面目さと強靭さが、本作をどこかシドニー・ルメットの撮った『セルピコ』(1973年)や『プリンス・オブ・シティ』(1981年)を思わせる作品にもしている。そのあたりも含めてやはり大人っぽい。
ボーズマンがステージ3の直腸がんと診断されたのは2016年のことだった。『ブラックパンサー』や本作などで主役を張り、精力的に仕事を続けたのも実は治療を受けながらだったのだ。その事実を念頭に、この『21ブリッジ』を観るとまた実に感慨深いし、またこれくらいのちょうどいい作品で、もっともっと活躍を見せてほしかったと思う。
文=てらさわホーク
てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。
<放送情報>
21ブリッジ
放送日時:2023年1月21日(土)21:00~、27日(金)21:00~
(吹)21ブリッジ
放送日時:2023年1月27日(金)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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