今なお続く昭和レトロブームの盛り上げ役『ALWAYS　三丁目の夕日』
ノスタルジックな世界を心ゆくまで追体験する

新しい家族のかたちを表現し、映画賞を総なめに

どこか懐かしく、ほのぼのとした温もりを感じさせる昭和の建築物や日常品、ファッション、食べ物などに特別な魅力を感じる若者たちが増えている。2000年代初頭から徐々に始まり、今なお続く昭和レトロブームの盛り上げ役を担ったといえる作品が、西岸良平の国民的コミック「三丁目の夕日」を実写映画化した『ALWAYS　三丁目の夕日』シリーズだ。

1作目の『ALWAYS　三丁目の夕日』(2005年)は、興収35億円以上を上げるロングランヒットを記録。第29回 日本アカデミー賞では全部門でノミネートされ、そのうちの作品賞、監督賞、脚本賞を含む12部門で最優秀賞を受賞したほか、その年の各映画賞を総なめにした。これを受けて制作された『ALWAYS　続・三丁目の夕日』(2007年)は前作を上回る大ヒット。完結編となる『ALWAYS　三丁目の夕日'64』(2012年)は、3D映画として制作・上映され、最終興収は3部作総額で110億円を突破した。

舞台は昭和33年、東京タワーが建設中だった東京の下町。短気だが、家族思いの父親・則文(堤真一)と、優しい母親・トモエ(薬師丸ひろ子)、やんちゃな小学生の息子・一平(小清水一揮)が暮らす自動車修理工場「鈴木オート」に、東北から星野六子(堀北真希)が集団就職で上京してくる。向かいにある駄菓子屋の店主・茶川竜之介(吉岡秀隆)は、三流少年誌に子ども向け冒険小説を執筆している、しがない小説家。そんな彼が恋心を抱く居酒屋の女将・ヒロミ(小雪)のところに、引き取り手のない少年・淳之介(須賀健太)が連れられてきて……。

原作者の西岸良平は1972年、「夢野平四郎の青春」で第8回ビッグコミック賞(現小学館新人コミック大賞一般部門)に入選。同作を「ビッグコミックオリジナル」に掲載して、本格的なデビューを飾る。1974年から同誌に「三丁目の夕日」の連載をスタート。本作で1981年に第27回小学館漫画賞青年一般部門を受賞した。

2010年に紫綬褒章を受章した西岸は、2022年には画業50周年を迎え、初の大規模展覧会を開催。76歳となる現在も「ビッグコミックオリジナル」にて同作を連載中であり、2023年6月に発売された『三丁目の夕日 夕焼けの詩』70巻が最新刊だ。「三丁目の夕日」はまさに彼の最大のヒット作にして、ライフワークともいえる代表作。実写映画版の公開を記念して、映画の原案になった12編を収録した「三丁目の夕日 映画化特別編」も刊行されている。

映画化にあたって、監督に決まったのは、監督デビュー作『ジュブナイル』(2000年)、『リターナー』(2002年)と、当時SF映画が2本続いていた山崎貴。原作コミックのファンだった彼は、10代の頃に漫画家志望だったことでも知られる脚本家・古沢良太と組んで、脚本を執筆。昭和30年代の東京の架空の街に暮らす人々の日常を描く1話読み切り型の原作から、様々なエピソードを厳選し、一筋の大きな流れを持つ物語を作り上げた。

まず、明確な主人公はいない群像劇の色合いが強かった原作に対し、映画版では駄菓子屋を営む茶川竜之介を主人公にしたところがポイント。原作ではすでに初老の年代だった茶川を30代前半の設定に変え、一人の男が、恋、夢、仕事、結婚、父性愛など数々の人生のテーマに真摯に向き合いながら、挫折を乗り越えていく成長物語となっている。

また、本作を支えるもう一つの大事なキャラクターが、自動車修理工場を営む鈴木家の人々。ひょんなことから孤独な少年・淳之介を引き取った茶川と同様、鈴木家は住み込みの従業員として雇った少女・六子と暮らすことになる。血のつながらない者たちが、一緒に生活することで、本物の親子に負けない絆を築いていく姿は、昭和前期に多かった三世代同居の大家族とはひと味違う、新しい家族のかたちを表現しているともいえる。

純文学の作家になる夢を持つ茶川竜之介を演じるのは吉岡秀隆。ちょっと陰のある美女で、町のアイドル的存在のヒロミ役に小雪。気性は荒いが人情深い典型的な日本の父親・鈴木則文役に堤真一。則文を支える良妻賢母のトモエ役に薬師丸ひろ子と、監督いわく「昭和っぽい」雰囲気を持つ、個性豊かな俳優たちが集まった。

鈴木オートに住み込みで働く星野六子役にキャスティングされたのは、撮影当時16歳だった堀北真希。実はこのキャラは原作では星野六郎という少年なのだが、映画化にあたり、設定を女の子へと大胆に変更。三丁目ワールドに甘酸っぱい可憐さをプラスしている。鈴木家や茶川家の子役たちを含め、若いキャスト陣が足かけ8年にわたる3部作を通して、物語とリンクしながら、大人っぽく成長していく過程が見られるのも感慨深い。

さすがのVFXで鑑賞者を昭和にタイムスリップさせる

劇中の時間の流れとしては、1作目は東京タワーが完成する昭和33年、2作目は東京オリンピックの開催が決定する昭和34年。3作目は2作目のラストから5年後、東京オリンピックが開催される昭和39年という設定。VFXの第一人者として、その確かな演出力に定評のある山崎監督作品だけに、本シリーズの最大の見どころといえば、綿密な時代考証と豪華なロケセットに加え、シリーズが進むごとにどんどん進化する最先端のVFX技術を駆使して完全再現された昭和30年代の東京の街並みだろう。

建設中の姿から完成後もシンボルとして繰り返し登場する東京タワー。混雑する上野駅や東京駅、羽田空港の様子。蒸気機関車C62や特急こだま、東海道新幹線、都電、鈴木家の愛車である軽オート三輪のミゼット、ディーゼルカーといったマニアを喜ばせる乗り物の数々。にぎやかな下町、まだ高速道路の架かっていない日本橋、ハイカラな銀座の風景。CGとセットの境目がわからないほど、繊細なバランスで作り込まれた昭和の世界はリアリティにあふれ、まるでタイムスリップしたような臨場感が味わえる。

CGの力を生かした、凝りに凝ったオープニングシーンも本シリーズを通したハイライトの一つ。1作目と3作目は、一平が飛ばした模型飛行機が、三丁目の路地裏から都電が走る大通り、東京タワーまでの景色を見せながら飛んでいくという印象的な演出。2作目は、なぜか突然、ゴジラが東京を襲撃し、東京タワーが倒壊してしまう驚きの始まりで、実は茶川が執筆中の冒険小説の1シーンだったというオチが楽しい(ちなみに山崎監督は大のゴジラ好きで、2023年11月公開の監督作『ゴジラ-1.0』では、いつかゴジラ映画を撮りたいという長年の夢を実現。同作には吉岡秀隆も出演している)。3作目では、東京オリンピック開催の日、航空自衛隊のブルーインパルスがアクロバット飛行をして、青い空に五輪マークの飛行機雲を浮かび上がらせたという伝説のシーンも見逃せない。

街の風景から小道具の一つ一つまで、当時をとことんリアルに再現している一方、そこで描かれるキャラクターや物語は優しさと温かさに満ちていて、現代人にとっては理想郷のようにも感じられる。たとえ今の生活が大変でも、未来は必ずよくなると、多くの人が心から信じることができた時代。時には、そんな昭和30年代への憧れを胸に抱きつつ、しばしタフな現実から離れて、ノスタルジックな世界を心ゆくまで追体験するのも悪くない。

文＝石塚圭子

石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、様々な世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。

＜放送情報＞
ALWAYS　三丁目の夕日
放送日時：2023年12月2日(土)16:00～、13日(水)21:00～

ALWAYS　続・三丁目の夕日
放送日時：2023年12月2日(土)18:20～、13日(水)23:30～

ALWAYS　三丁目の夕日'64
放送日時：2023年12月2日(土)21:00～、14日(木)2:15～
チャンネル：WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

※放送スケジュールは変更になる場合があります