永遠のカンフースター!ブルース・リーの伝説を辿る(『最後のブルース・リー/ドラゴンへの道[4Kリマスター版]』)

武術家にして世界的なスター!
カンフーマスター、ブルース・リーの伝説をいま語り継ごう

2022/08/29 公開

世界にアジア人俳優の存在を知らしめ、アクション映画におけるマーシャルアーツ的な殺陣の重要性を世に知らしめた永遠のスター、ブルース・リー。今なお世界中で高い人気を誇り、多くの後進を生み出しただけでなく、アクション映画の新たな方向性を示した人物でありながらも、主演映画わずか5本、32歳の若さでこの世を去った。大きな足跡を残しながらも、早逝してしまったがゆえに彼は揺るぎない伝説になったと言えるだろう。

2023年には没後50年を迎えることなるが、リーの残した作品は、近年4Kリマスター化されることによって、より鮮明にその活躍を見ることができるようになった。今回は、彼の主演5作を追いながら、その伝説の足跡を振り返っていこう。

武術家から俳優へと転身し、カンフー映画のムーブメントを生み出す!

1940年に生まれたブルース・リーは、13歳から5年間、香港で詠春拳の達人であり、のちに映画のモデルになる偉大な武術家イップ・マンのもとで武術を学ぶ。その後、18歳で単身渡米し、大学に通いながら道場を開いて中国武術の指導をはじめ、ここで独自の思想に基づいた新しい武術である、截拳道(ジークンドー)を創始する。そんななか、国際空手選手権大会で演武を行った姿がテレビ関係者の目に止まり、ヒーローもののテレビシリーズ「グリーン・ホーネット」にて準主役の日系アメリカ人、カトー役に抜擢。その人並み外れたキレのあるアクションと存在感が大きな話題となった。

これをきっかけにリーは、自身が主役となる連続テレビドラマ「燃えよ!カンフー」を企画するが、当時は東洋人がアメリカのテレビドラマの主役になることは、時代的にまだ叶わなかった。その一方で、芸能界的なつながりから、彼の道場にはスティーヴ・マックイーンやジェームズ・コバーンらハリウッド俳優やスポーツ選手らが通い、彼の門下生となっていた。

アメリカで道場主としては成功しながらも、俳優としては主演作を得ることができなかったリーは、香港の映画会社ゴールデン・ハーベストと契約して、香港へ帰還。そして、主演第1作となる『ドラゴン危機一発』(1971年)に出演する。

ブルース・リーの主演第1作『ドラゴン危機一発[4Kリマスター版]』

ちなみに、アメリカで名声を得ようとしているこの頃のリーを扱った映画が、近年2本公開されている。一つは、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが共演した、クエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)。こちらでは、ハリウッド映画スタジオ界隈で、その腕っぷしの強さを披露していた若き日のリーをマイク・モーが演じている。もう一つは、ドニー・イェン主演の『イップ・マン 完結』(2019年)。こちらは、サンフランシスコに渡米したイップ・マンがかつての弟子と再会する形でチャン・クォックワン演じるリーが登場。ちなみに、どちらもフィクションであるため、時代背景はマッチしているが、事実とは大きく異なっている。

『ドラゴン危機一発』でリーは、香港からタイに住む従兄弟のもとに出稼ぎに来た主人公の青年チェン・チャオアンを演じている。彼が働く製氷工場は、経営者であるギャングのボスが麻薬密売のための隠れ蓑的に使っていた場所であり、その秘密に偶然触れた従兄弟たちが殺されてしまう。帰って来ない従兄弟たちの行方を追うなかで、チャオアンは、製氷工場に隠された真実を知り、従兄弟たちの死に怒りを爆発させるという物語となっている。

当初、リーは準主役の予定だったが、その存在感と身体能力の高さから主役に抜擢され、彼の伝説が幕を開けることになる。1対多数の戦いにおいて、見劣りしない彼の体さばきは現在の目から見てもほかの出演者たちから抜きん出ていた。観る者の度肝を抜くキレのあるアクションは大きな話題となり、公開されると当時の香港の映画興行記録を更新。本作はストーリーや演出面においては荒削りな印象が強いが、マイナス面の全てをリーによるアクションが払拭。本作の登場によって、それまで時代劇が中心だった香港のカンフー映画の流れを大きく変えるきっかけとなった。

抜群の存在感と卓越した身体能力の高さで準主役から主役へと変更されることになったリー(『ドラゴン危機一発[4Kリマスター版]』)

この大ヒットを受けて、リーの魅力を前面に出す映画として、2作目となる『ドラゴン怒りの鉄拳』(1972年)が翌年に公開される。物語の舞台となるのは、20世紀初頭の上海。精武門の創始者である中国武術家が謎の死を遂げる。その死を聞いた愛弟子の陳真(リー)は、師匠の死に疑問を持ち行動を開始。敵対する日本人柔道場との熾烈な戦いが描かれる。

本作からリーは主演だけでなく武術指導や製作にも関わるようになり、前作の『ドラゴン危機一発』よりもアクション面でのパワーアップが見られる。本作では、その後のリーの代名詞となるヌンチャクや特徴的な怪鳥音が初登場しており、彼の才能が大きく開花した1作だと言えるだろう。そして、『ドラゴン怒りの鉄拳』は、『ドラゴン危機一発』の興収を破り、リーの名を不動の地位へと着かせることになった。

ちなみに、リーが演じた陳真というキャラクターは本作のために作られた架空の人物だが、本作での中国人への差別的な発言を打ち砕く強い精神を持つ人物というイメージによって中国では人気のキャラクターとなり、その後ジェット・リーやドニー・イェンが陳真を演じた作品も制作されている。

おなじみのヌンチャクを使ったアクションも初登場した『ドラゴン怒りの鉄拳[4Kリマスター版]』

『ドラゴン怒りの鉄拳』での成功に伴い、リーは自身が社長となる映画製作会社コンコルド・ピクチャーズを設立。その製作1作目にして、リーが監督、脚本、武術指導、主演を務めたのが、主演3作目となる『最後のブルース・リー/ドラゴンへの道』(1972年)だ。

イタリア・ローマの中華レストランの娘チャンは、地元ギャングによる地上げトラブルの解決を香港の弁護士に相談。しかし、弁護士がローマに来られなくなったため、代わりに従兄のトン・ロン(ブルース・リー)がやって来る。頼りない青年に見えたトンは武術の達人で、店に嫌がらせをするギャングを一蹴。しかし、それが引き金となりギャングたちの嫌がらせが激化し、トンはギャングの雇った用心棒たちとの戦いに身を投じていく。

前2作のシリアスで、殺伐とした雰囲気は鳴りを潜め、異文化交流的なコメディ要素や、少しずつ仲間たちと打ち解けるアットホームな雰囲気など、明るい作風で描かれている。その一方で、最大の見どころと言えるのは、コロッセオを舞台としたチャック・ノリス演じるアメリカ人空手家との一騎打ち。達人同士の鬼気迫る駆け引き、途中でトンがフットワークを活かして逆転に転じる流れなど、質の高いカンフー対空手の対決によって、彼が求めるアクション性がさらに極まったと言えるだろう。

チャック・ノリス演じるアメリカ人空手家との激闘にしびれる!『最後のブルース・リー/ドラゴンへの道[4Kリマスター版]』

念願のハリウッド進出とあまりにも突然過ぎる死…

続いて、コンコルド・プロダクション製作にして、リーの監督作第2弾となる『死亡的遊戯』の撮影が1972年秋からスタートする。しかし、ハリウッドの大手映画会社ワーナー・ブラザースから合作映画製作の打診が入る。リーは、かつて挫折を味わったアメリカ映画界からの誘いと、念願の世界進出となる作品への主演が叶うということで、撮影が始まったばかりの『死亡的遊戯』の製作を中止し、合作映画である『燃えよドラゴン』(1973年)の現場に入る。

物語の舞台となるのは、1970年代の香港。悪の道に手を染めて少林寺を破門となったハンは、自身の所有する孤島で阿片を精製するなどして、その力を蓄えていた。ハンは島で3年に一度、腕利きを集めた武術トーナメントを開催。少林寺の武術の達人であるリー(リー)は、国際情報局の依頼を受ける。少林寺の名に泥を塗り、自身の姉を死に追いやったハンへの復讐を誓ったリーは、島に渡ってトーナメントに参加する。

念願だったハリウッドからのオファーを受けて出演した『燃えよドラゴン』

新鋭であるロバート・クローズが監督を務めているが、映画の製作にはリーも大きく関わっており、クレジットされている武術指導に留まらず、脚本の変更や撮影にも口を出すことで共同監督的な立場に身を置き、映画の完成度を高めるために並々ならぬエネルギーを注いでいる。

その結果、アクション的にはそれまでのリー主演作の総決算と言えるレベルにまで練り上げられており、撮影予算の高さやエキストラの多さ、セットのクオリティや撮影状況も含めて、まさにスターダムに駆け上ってきた、リー映画の最高傑作と呼べる内容となっていた。

撮影は全編香港で行われており、当時ゴールデン・ハーベストで役者の卵として、スタントマンやエキストラをしていた、ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウらがハンの手下のチンピラ役などで出演しており、この作品でのリーとの関わり合いによって、次代の香港アクションスターへのバトンが繋がったという意味でも重要な1作となっている。また、権力者が開く武闘家たちによるトーナメントというシチュエーションは、この作品以降、多くの格闘マンガやアニメ、映画などで取り上げられるようになり、エンタメ的な意味でも大きな足跡を残したとも言える。

3年に一度開催される武術トーナメントを舞台に、腕に覚えのある格闘家たちが激闘を繰り広げる(『燃えよドラゴン』)

『燃えよドラゴン』が完成したのは、1973年7月上旬。関係者を招いた完成披露試写で初めて作品を観たリーは、その完成度の高さにとても満足していたという。しかし、それから1か月足らずのうちに、大きな悲劇が訪れる。撮影が中断していた『死亡的遊戯』の撮影開始に向けた打ち合わせを進めていたのだが、リーは激しい頭痛を訴え、共演予定だった女優からもらった頭痛薬を服用。しかし、その後彼が目覚めることはなかった。念願だった世界進出の主演作である『燃えよドラゴン』の香港公開を翌週に控えた7月20日、彼は急逝してしまったのだ。

リーの死が報じられるなか、香港を皮切りに『燃えよドラゴン』は世界各地で公開され、大ヒットを記録。その影響力はすさまじく、世界的なカンフー映画ブームが到来することになる。ちなみに、マーベル・シネマティク・ユニバースの作品として公開された『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年)、Netflixのドラマシリーズとして製作された「アイアンフィスト」など、カンフーヒーローもののマーベルコミックスの原作は、カンフー映画ブーム時に誕生しており、ヒーローものにも大きな影響を与えていたのがわかるだろう。

日本では、1973年12月に公開され、リーの映画が日本に初上陸することになった。この頃は「カンフー映画」というジャンルがまだなく、「空手映画」として宣伝されるが、この映画の存在によって「カンフー映画」の存在が大きく認知され、千葉真一や倉田保昭らの日本のアクションスターにより、「空手映画」からさらに踏み込んだ「和製拳法映画」が多数製作されるようになり、日本の映画界にも大きな影響を与えることになった。その一方で、これだけの衝撃を与えたカンフースターのリーが、その存在が日本に知らされた時にはすでに故人であったことは、当時のファンにも大きなショックであったことも語り継がれている。

リーの死後、彼が途中まで撮影していた『死亡的遊戯』の撮影済みフィルムを使用した『死亡遊戯』が1978年に公開されることになる。

『死亡的遊戯』は『燃えよドラゴン』の撮影に入る前に、「五重塔を上に登りながら、各階を守る武術の達人と戦う」というプロットで撮影が進められており、そこに至るまでのストーリーが固まる前にクライマックスとなるアクションシーンのみが撮影終了している状態だった。このわずかな撮影済みフィルムをもとにして、1本の映画として仕上げるために、『燃えよドラゴン』でリーと撮影を共にしたロバート・クローズが監督として参加。同じくリーと交流があったサモ・ハン・キンポーと共に共同監督を務め、ラストバトルに至るまでの物語が作られることとなった。

生前に撮られたシーンを生かす形で製作された『死亡遊戯[4Kリマスター版]』

主人公となるのは、アクション俳優のビリー・ロー(リー)。暴利を得るために有名スポーツ選手や映画俳優に終身契約を結ばせようとする組織からの誘いを受けながらも、ローは頑なに拒否。その結果、組織から命を狙われることになる。そして、新たな映画作品に取り組んでいたローは撮影中に組織によって暗殺されてしまい、香港では彼の大規模な葬儀が行われた。しかし、銃撃されたはずのローは一命を取り留めており、自身を殺そうとした組織に復讐を果たすべく、組織のアジトへと戦いに向かう。

作品はメタ的な構造となっており、劇中ではリーの実際の葬儀のシーンが使われつつも、死んだと思われたアクションスターは生きていて、過酷な戦いに挑むという物語となった。また、当初予定していた五重塔を登っていくというプロットも本編では使われなくなってしまっている。前半パートでは、リーが出演しているシーンはほかの映画から持ってきたものを編集し、演技や新たなアクションが必要なところは、そっくりさん俳優のタン・ロンやアクション俳優のユン・ワーやユン・ピョウが代役を務めることで撮影が行われた。

主演俳優が死亡しているという状況で撮られた作品であるため、1本の映画としての完成度に難があるのは仕方ないところだが、幻となってしまうだけだった撮影済みフィルムを映画として世に出せたこと、そしてリーの葬儀のシーンも記録映画的に観ることができるという意味では、決して価値が低い作品ではないだろう。

また、のちに明かされることになる、「五重塔の各階を守る武闘家と戦いながら上層を目指す」というリーが想定していたプロットは、その後少年マンガやアニメなどでもよく使われることになり、『燃えよドラゴン』の格闘トーナメントと同じく、エンタメ的な意味での世間に与えた影響は大きい。こうしたバトルシーンのアイデアは、「銃という武器が全盛の時代に、どうやって格闘だけでアクションを成立させるか?」という部分を考えた結果生まれたものであり、そのアイデアは時代を超えて継承され続けることになった。

生き様も含めて、カンフースターとしての在り方がのちのエンタメ作品に大きな影響を与えた(『死亡遊戯[4Kリマスター版]』)

見せるための筋肉ではなく、格闘技のために鍛え抜かれた身体。そこから繰り出されるアスリートレベルに磨き抜かれた、目にも止まらぬ技の数々。特徴的な戦闘時の佇まいと表情。映像からもしっかりと感じることができるストイックさ。そして圧倒的なオーラを放つ存在感。彼が体現してきたリーのキャラクター性もまた、唯一無二のアイコンとして、漫画、アニメ、映画、ゲームなどのエンターテインメントに欠かせない遺伝子として組み込まれ、オリジナルに触れたことがない人たちでも、その影響下にある作品に必ず触れて来たと言っても過言ではない存在となっている。

こうして振り返ることで、ブルース・リーは、主演した作品だけでなく、エンターテインメント全般に影響を与えた人物として、歴史的な偉人と並ぶように、永遠に語り続けられるレジェンドであることが理解できるだろう。

文=石井誠

石井誠●1971年生まれ。アニメ、アメコミ、アクション、ミリタリーなどのジャンル系映画を好むホビー系映画ライター。「シネコンウォーカー」、「MOVIE WALKER PRESS」、「映画秘宝」、「月刊ニュータイプ」、「アニメージュプラス」などで執筆。著書に「安彦良和 マイ・バック・ページズ」(太田出版)などがある。

<放送情報>
燃えよドラゴン
放送日時:2022年9月10日(土)16:15~、12日(月)9:00~

ドラゴン怒りの鉄拳[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月4日(日)10:00~、10日(土)12:00~

ドラゴン危機一発[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月4日(日)8:00~、10日(土)10:00~

最後のブルース・リー/ドラゴンへの道[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月10日(土)14:15~、27日(火)11:30~

死亡遊戯[4Kリマスター版]
放送日時:2022年9月10日(土)18:45~、21日(水)0:00~
チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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