結婚に前向きになれない男性の姿を通して、結婚の意味について問いかける『フォー・ウェディング』

結婚に悩み、翻弄される独身男性が取る選択とは?
貴公子ヒュー・グラントの好演も光る『フォー・ウェディング』

2023/06/05 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第27回に登場するのは、『フォー・ウェディング』(1994年)。原題の『FOUR WEDDINGS AND A FUNERAL』の通り、4つの結婚式と1つの葬式が行われるなかで、真実の愛を見つける男女をコミカルに描いたロマンティックなラブストーリーだ。主演はヒュー・グラント、ヒロインをアンディ・マクダウェルが演じている。2021年には本作の脚本を手掛けたリチャード・カーティスが製作総指揮を務めたリメイクドラマも作られた。

ハンサムでリッチ、女性にもモテて恋人には不自由しないが、自分の気持ちを素直に表現するのが苦手な32歳の独身男性・チャールズ(グラント)。隣にいる恋人が本当に生涯を共にする相手なのか自信が持てず、結婚となると逃げ腰になってしまう。ある日、友人の結婚式で花婿の付き添い人を務めた彼は、アメリカ人女性・キャリー(マクダウェル)と出会う。才色兼備でチャーミングな彼女に惹かれて果敢にアタックすると、幸運にもベッドを共にすることに。しかし翌日、「婚約はいつにする?」と口にするキャリーにチャールズがおどおど戸惑っているうちに、彼女はアメリカに帰国してしまう。それから3か月後、別の友人の結婚式で2人は再会。チャールズが喜んだのも束の間、彼女からフィアンセを紹介される――。

ヒュー・グラントが、女性にモテるが結婚できないチャールズをチャーミングに演じる

女性にはモテるけど、優柔不断で結婚に踏み切れないチャールズ

松崎「イギリスでは80年代後半の美青年ブームもあって、まあまあの知名度があったヒュー・グラントが、アメリカでも大ヒットを飛ばし、一気に世界的なスターになった作品です。テーマは4つの結婚式と1つのお葬式ですが、いろいろな人が集まる場所では面白いことが起きますね」

小川「邦題には入っていないですが、お葬式の話でもあったのかと改めて感じますよね。ダメ男を演じるヒュー・グラントがとにかくキュートで、寝起きの寝癖も含めてチャーミングというような魅力がたっぷり詰まっています」

松崎「それはそれとして、チャールズはだらしない男ですよね」

小川「こういう人は実際よくいるんじゃないでしょうかね」

松崎「不真面目に女性と付き合っているわけじゃないのに、相手を傷つけていて」

小川「計画的ではなく、結果的に傷つけてしまっているタイプ」

松崎「プレイボーイではないですよね。モテてはいるけれど」

小川「32歳で付き合った人数は10人でしたっけ。彼のコミュニティの中でめちゃくちゃモテている感じはありましたよね」

松崎「一筋縄ではいかない女性と付き合ってしまうのも、チャールズの恋愛がうまくいかない理由の一つなのかな」

小川「断らないんじゃないですか?来るもの拒まずじゃないけれど、まずは付き合ってみるタイプとか。キャリーに一目惚れして初めて、チャールズは能動的に動き出している気がします」

松崎「自分の結婚式で、最悪な形で相手を傷つけてしまっているのがその証拠かな。脚本のリチャード・カーティスとグラントは、ここからいくつかヒット作を生み出します。いわゆるイギリスの良質な個性同士がうまくつながったという印象です。『ノッティングヒルの恋人』でのイケてない本屋さんのお兄ちゃんから、『ブリジット・ジョーンズの日記』のプレイボーイ、『ラブ・アクチュアリー』では首相まで演じて。ベースは同じなのに、振り幅を出して魅力的なキャラクターにしたという点では、2人の相性はすごく良かったのだと思います」

小川「『ブリジット・ジョーンズの日記』の原型みたいなものをこの作品で感じました。言いたいことを言い合えて、応援し合える友だちとの関係性もそうです。結婚を目的にしつつも、友情にも同じくらい重きを置いているというか」

アメリカ人のキャリーに一目惚れし、出会ってすぐに関係を持つが、その後はすれ違いが続き…

松崎「チャールズがルームシェアをしているのは、実の妹ではなく、妹のような存在の女友だちというのも興味深いですね。今でこそルームシェアは珍しくないけれど、当時はすごく海外っぽいなと感じた記憶があります」

小川「友だちが自然と生活に介入していることが伝わりますよね。チャールズの場合、家族のような友人たちの存在が、結婚への向き合い方にも影響している気がします」

松崎「そうですね。そんな時に人生で初めての一目惚れをするという、運命的な出会いを果たします。すぐにベッドインしてうまく進展したと思っていたのに、翌日に相手はアメリカに帰国してしまう。その3か月後に別の結婚式で再会するまでモヤモヤしたものを抱えているのですが、そのモヤモヤがある種、彼女に対するこだわりになった気がします」

小川「親友の女性からキャリーについてのよくない噂を聞いていたにもかかわらず、自分で本当の彼女を知りたくてしかたないというのは、まさに惚れてしまったということなんでしょうね」

松崎「自分で確かめたいという気持ちが煽り立てられることってありますよね」

小川「一晩を過ごしてお互いに満足した感覚もあったのに、翌日に去られたら、え?って余計に気になるでしょうしね」

ある女性との結婚に踏み切るが、キャリーが忘れられないチャールズ

4つの結婚式と1つの葬式を通して結婚の意味を問いかける

松崎「面白いのは、4つの結婚式と1つの葬式で同じメンバーが集まっていることですよね。しかもかなりの人数を呼んでいるから、元カノ、元カレだって鉢合わせするし、事情の知らない人と同席すれば心ない質問をされて地獄になる…みたいなこともある。お葬式のシーンでは、ゲイのカップルの関係が初めてオフィシャルになる様子が描かれます。法的に同性婚がまだ認められていなかった時代でこういった描き方をしている点も含めて、いろいろな目配せがある映画ですよね」

小川「冠婚葬祭って言葉はあるけれど、日本だと結婚式と葬式はなかなか一緒には考えられないですよね。伊丹十三の『お葬式』じゃないですが、正式な儀式とされる場所だからこそ生まれるギャップ的なコメディ感も楽しめました」

松崎「結婚をテーマにしながら結婚を選ばないチャールズの選択は、最良の形だと思ったし、当時は新鮮だったはずです。小川さんはいかがですか?」

小川「結婚を目的として描きながら最終的に結婚しない選択をするという、優柔不断さを肯定していますよね。また、当時のイギリスはまだ同性婚が認められていなかったこと、いまだに誰もが自由に得られる権利ではないことも再確認させてくれます。結婚って、誰もがすべきことではないと思いますが、自分以外のみんながしているように感じると、自分もしなくてはとプレッシャーのように感じているところはあると思うんです。結婚の形について考えさせてくれるという意味でも、最大限の開かれたエンディングを模索したんだろうなと感じました」

松崎「結婚するはずがドタキャンされた相手やその家族にとってはいい迷惑な話だけど…。だからこそ、キャリーとは結婚という形ではなく、幸せに生きるという考えでまとまっていくのでしょう」

結婚できない男、チャールズが最後に導き出す選択とは?

小川「この映画の中では、4つの結婚式よりも、お葬式のほうが素敵に描写されていますよね。本来の結婚の意味を問いかけているというか」

松崎「結婚の意味や大切さ、形式に対しての考え方などを見事に表現しているのは画期的だし、改めてすごくよくできた構成だと感じています」

小川「最初の結婚式が、あえて一般的なステレオタイプとして描かれ、そこから、一見マジョリティに見えても実はそこにハマれていない人たちの恋愛模様に光を当てようとしている演出があるのもいいなと思いました」

松崎「もう一つ、とても印象的だったのはスピーチです。特に惹かれたのはお葬式でのスピーチでした。あるあるだと思ったのは、友人の結婚式で『俺に任せておけ!』という人が一番ひどいスピーチをするところ。結婚式と葬式、双方のあるあるも随所に登場して笑わせてくれます」

小川「スピーチって難しいですよね。結婚式の場合、どこまで新郎新婦をいじって、みんなを笑わせるかの塩梅もポイントになってきます。スピーチがよかった結婚式やお葬式は、いい式だったなという印象が深く残ると思います」

取材・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
フォー・ウェディング
放送日時:2023年6月9日(金)23:15~、13日(火)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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