運命に翻弄される男たちの友情が切ない
韓国青春ノワールの名作『友へ チング』
2023/12/25 公開
韓国映画の新たな「やくざもの」の幕開けとなった1本
1999年に作られたスパイ・アクション『シュリ』の成功によって新しい時代へと突入した韓国映画。その勢いは各ジャンルへとおよび、組織暴力団員たちが主人公の、いわゆる「やくざもの」も、大きく変貌を遂げた。今回紹介する『友へ チング』(2001年)は、そうした流れの幕開けを告げる1本だ。
1970年代後半、暴力団幹部を父に持つジュンソク(ユ・オソン)、葬儀社の息子ドンス(チャン・ドンゴン)、優等生のサンテク(ソ・テファ)、お調子者のジュンホ(チョン・ウンテク)は、いつも4人で遊ぶ仲間同士。年下の子どもたちに怪しいヌード写真を売りつけたり、おもちゃ屋で万引きしたりといった悪さをするのも一緒だった。別々の中学校に進んだ4人は高校で再会。しかし、手の早いジュンソクとドンスは他校と乱闘事件を起こして退学処分となってしまう。10年の月日が流れ、サンテクとジュンホが進学した一方、ジュンソクとドンスは対立する暴力団に入り、それぞれ頭角を現していく。
韓国での公開時に約800万人という観客を集め、『シュリ』、『JSA』(2000年)の記録を書き換えた今作。南北問題をエンターテイメント化した2作品と違い、地方都市に住む男たちの友情物語という、比較的地味な内容だったが、普段あまり劇場に足を運ばない40代以上の男性客を引きつけたのが成功につながったと言われている。
また、日本の観客にはわかりにくいのだが、出演者全員が、全編にわたって舞台となる港街・釜山(プサン)の方言で話したというのも話題となり、映画のヒットと共に知られるようになった劇中のセリフは映画史に残る名セリフとして記憶されている。この辺の感覚は往年の名作『仁義なき戦い』(1973年)を観た人が必ず一度は「~じゃけえ」と、怪しい広島方言を使ってしまうのにも似ていておもしろい。成長後のジュンソクとドンスが暴力団員として勢力を競う1990年代の釜山の様子はその後、ユン・ジョンビン監督の『悪いやつら』(2011年)でも取り上げられ、こちらも釜山方言のセリフが流行語となった。
1970年代後半から1980年代にかけての風物をノスタルジックに再現した美術や音楽も、その時代を知る観客を魅了した。主人公たちの子ども時代に登場する、ビデオテープやゲーム、刺すと引っ込むおもちゃのナイフなど、日本から見ても懐かしいものが次々登場する。
監督の実体験をベースに構築された、濃密なドラマ
成長するにつれて、友人でありながら番長格のジュンソクに屈折した思いを抱くようになるドンスに扮しているのは、それまで貴公子的なイメージの強かったチャン・ドンゴン。韓国の公開時には「釜山方言を話すやくざ役を演じられるのか?」と、危ぶむ声もあったが、タバコを増やしてダミ声を作るなどの役作りで、心配を吹き飛ばした。高校時代の詰め襟姿もちょっと無理はあるが、微笑ましい。今作の成功後は『ブラザーフッド』(2004年)や『マイウェイ 12,000キロの真実』(2011年)といった大作への出演が続いた。「友達同士で謝る必要はない」と語り、「チング(友だち)」を大切にし続ける男ジュンソクに扮しているのはユ・オソン。優等生サンテクに憧れながらも「やくざになるしかなかった男」がカラオケで歌う「マイ・ウェイ」が切ない。ユ・オソンは翌年の『チャンピオン』でもクァク・ギョンテク監督と組んだほか、今作から12年後に作られた続編『チング 永遠の絆』(2013年)でも、ジュンソクのその後を演じている。
監督は医大を中退後、アメリカに留学して映画を学んだという異色の経歴を持つクァク・ギョンテク。長編第3作となる今作は彼の実体験を基にしており、物語の語り手となるサンテクには自身のキャラクターが投影されている。図らずも対立する組織に入ってしまった友人たちのなかに残る、幼い頃からの友情という、下手をすれば陳腐になってしまいそうなテーマを、渋みのある美しい映像で綴った手腕が光る。特に、その友情の原点となる、夏の日に釜山の海で遊ぶ4人の姿が忘れ難い。
2009年には、クァク・ギョンテク監督自ら、今作をドラマとしてリメイク。映画に登場した数々の名場面はもちろん、オリジナルではほとんど描かれなかった主人公たちそれぞれのラブストーリーも追加され、ドンスをドラマ「愛の不時着」のヒョンビンが演じるなど、キャストもぐっと若返った。昨今は映画監督がドラマを撮ることが当たり前になっているが、当時はまだまだ珍しく、クァク・ギョンテク監督をはじめとするスタッフの「1時間の映画を20本撮ろう!」という気持ちが詰まった、密度の濃い映像も見どころだった。
『友へ チング』が作られた2000年代初めの韓国では、暴力団の女性組長が平凡な男性と結婚する『花嫁はギャングスター』(2001年)、暴力団の中間幹部が高校に入学する『マイ・ボス マイヒーロー』(2001年)、暴力団会長の娘がエリートビジネスマンと結婚する『大変な結婚』(2002年)といった「やくざコメディ」が次々と作られ、それぞれシリーズ化されるほどの人気を集めた。こちらのジャンルはすっかり廃れてしまったが、『友へ チング』に連なる暴力団組織を舞台にした男たちの愛憎劇は脈々と作られているのがおもしろい。
文=佐藤結
佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「韓国映画で学ぶ韓国の社会と歴史」(キネマ旬報社)、「作家主義 韓国映画」(A PEOPLE)など、訳書に「私書箱110号の郵便物」(アチーブメント出版)がある。
<放送情報>
友へ チング
放送日時:2024年1月4日(木)12:00~、24日(水)23:30~
チャンネル:スターチャンネル2
(吹)友へ チング
放送日時:2024年1月9日(火)0:50~、28日(日)17:10~
チャンネル:スターチャンネル3
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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