レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが『タイタニック』以来11年ぶりに共演した『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』

理想は幻想なのか?
『レボリューショナリー・ロード』が突きつける夫婦の不都合さ

2022/08/29 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第18回に登場するのは、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008年)。リチャード・イェーツの小説を原作に、『タイタニック』(1997年)のレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが11年ぶりの共演で夫婦役を演じている。監督は『007 スカイフォール』(2012年)や『1917 命をかけた伝令』(2019年)のサム・メンデスだ。

舞台は1950年代半ばのコネチカット州の郊外。「レボリューショナリー・ロード」と名づけられた閑静な新興住宅地であるこの地に引っ越して来た、フランク(ディカプリオ)とエイプリル(ウィンスレット)のウィラー夫妻は2人の子どもにも恵まれ、一見すると理想のカップルのように周囲には映っていた。しかし、フランクは自身がコンピューター会社のしがないセールスマンであることに生きがいを見出せず、かつて俳優志望として活動していたエイプリルも夢を諦めた過去を引きずっていた。そんなある日、エイプリルがフランクに、「家族みんなでパリに思い切って移住しましょう!」と提案したことから、夫婦は自己実現と家族との愛の狭間で揺れ動くことになっていく…。

『タイタニック』で情熱的なカップルを演じたディカプリオとウィンスレットが、壊れゆく夫婦を演じる

夫が外で働き、妻は家を守る…。かつて当たり前だった夫婦のあるべき姿の崩壊

松崎「公開当時は『タイタニック』の2人が再共演するということで、ディカプリオ&ウィンスレット演じる夫婦の恋愛が見られることを期待して観に行った人も多いのではないでしょうか?でも、観てみたらビックリ!重苦しい気持ちで劇場をあとにすることになったと思います。特に結婚生活を送っている人には、『うわっ』と感じる部分はかなりあったんじゃないかな?今回、改めて観てもキツい映画だと思いました。内容がキツいのであって、映画としてはかなり良質な作品という感想です」

小川「キツい内容ではあるけれど、すごく好きな作品です。1950年代、当時の男性や女性が持っていた『女性とはこういうもの』という考え方に問いを投げかけているところがすごくいいなと」

松崎「男性は大黒柱となり、郊外に一軒家を構え、家には奥さんと子どもがいる。当時はそれが幸せな家庭のイメージだったのですが、本作で描かれているのは、そういうイメージがある世の中で、自分の気持ちを押し殺したり、隠したり、気づかないフリをし続ける夫婦ではなく、これは本当の幸せなのか?と、奥さんが気づいてしまう物語です。そして、夫の方はその疑問がよくわかっていない。幸せな家族はこう、夫婦はこうあるべきという有害な規範に囚われているから気づけないのか、あえて気づかないのか…」

恋心が燃え上がるまま結婚したフランクとエイプリル

小川「男性は外に働きに出ればそれなりにお金が稼げた時代。一方、本作で働いている女性は結婚するまでの腰掛けをしているような描写でしたね」

松崎「団塊の世代の親がちょうど家庭を築き始める頃ですね。この後にヒッピー世代が出てきます」

小川「家族とは何か、幸せとは何かを問うことが始まった、すごくリアリティのある作品ですよね」

松崎「リアリティのある話ではあったけれど、原作小説が古典となる2000年代後半まで映画化されなかったのは、社会的な風潮もあって映像化するのが難しかったのかなと想像します」

小川「普遍的な物語だと思いつつ、先日、中絶の権利を認める『ロー対ウェイド判決』が米連邦最高裁で覆されたこともあり、女性の権利を取り巻く状況が時代を経てもあまり変わらないことに、すごくモヤモヤしました」

俳優という夢を諦め、専業主婦になったことに疑問を感じているエイプリル

一歩間違えれば、牢獄にもなりかねない家庭の危うさ…

松崎「一方で、なんと言ってもこの作品のポイントは『タイタニック』コンビが、決定的な溝を抱えた夫婦を演じているところです。『タイタニック』は、一晩で燃え上がる恋が、一生忘れられない恋になる話。今回は、恋に落ちて、お互いのいいところだけを見た状態のまま結婚。2人の子どもに恵まれ、3人目も授かりますが、理想と現実のギャップに苦しんでいます。恋愛と結婚は違うという部分も描かれているし、ご丁寧にもキャシー・ベイツまでキャスティングしているので、作る側が『タイタニック』を前提にしていることをハッキリ押し出した作品と言えますね」

小川「『タイタニック』で親交を深めたディカプリオとウィンスレットは、その後も2人でやりたい作品を探していたみたいですね。また、監督が当時のウィンスレットの夫、サム・メンデスだったことも、この作品が素晴らしいものになった要因なのかなと。にしても、エイプリルが浮気する相手が家族ぐるみで付き合いのあった友人であることが象徴するように、妻が一人を楽しめる隙が家の外にないというのは、まるで牢獄と変わらないと思いました。いつか外に出られると夢でも見ないと窒息してしまうような、息苦しさや生きにくさが常にある感覚でした」

松崎「幸せな家庭を装っているけれど、実は牢獄だということに気づいてしまったんですね。ベイツ演じる不動産屋のヘレンの息子のジョン(マイケル・シャノン)は、数学の博士号を持つ秀才だけど、精神的バランスを崩して入院生活を送っているという設定で、世間から異常者のように扱われています。しかし、フランクとエイプリルが夫婦間で抱える問題など、物事の本質が見えているのは彼だけというのが、皮肉だなって。だからこそ彼は、精神を病んでしまったのかもしれないですが…」

精神を病んでいるが、フランクとエイプリルの夫婦が抱える問題を的確に追及するジョン

小川「時代的に病気と診断されていますが、病んでいるのは、彼の周りでは?と思わされますよね。時代設定は違いますが、『ブルーバレンタイン』と並べて語る人も多かったなと思い出しました。どちらも互いに愛はある夫婦なのだけれど、時間の流れや家族の役割分担と共に、不平等性の塵が積もって愛が憎しみに変わる様が描かれているというか。『レボリューショナリー・ロード』というタイトルもなかなかですよね。ストリートの名前だけど、革命の道ってかなりプレッシャーじゃないですか。その道に進むのに相応しそうなカップルを、不動産屋さんが探してくるという…(笑)。もともとフランクもエイプリルも夢がある魅力的な人たちだったはずなのに、退屈にさせてしまう環境というか社会システムというか…。愛や恐ろしさ、呪縛のようなものが浮き彫りになり、幸せな家庭の裏側にある現実を突き付けられました」

松崎「先ほども言ったように、『大黒柱たれ』という呪縛。要するに、夫が稼ぎ、妻が家を守ることで幸せな家庭が成り立つ、という考え方に翻弄された2人なんですよね。『タイタニック』では船が沈没し、この作品では家族が沈没したなんて言われたりもしましたね」

小川「離婚という選択をしにくいという時代背景も関係しているとは思いますが、お互いになんとかやり直せないか、打破する道はないかともがいている様子がとてもドラマチックですよね。だけど、2人が進もうとしている方向は全然違って」

松崎「もし、仮にパリに行くことができたとしても、うまくいったかはわからないですね」

小川「エイプリルの提案通り、彼女が外に出て働き、フランクが家で子どもの面倒を見る、これが実現すれば何かが変わっていたかもと考えたりもしますけどね。若い頃は違ったのかもしれませんが、エイプリルは自分も好きな人も好きなことをして生きるべきだというスタンスに見えます。一方で、フランクはやりたいことが取り立ててなくてもそこで満足しながら生きていけちゃうタイプ。2人の性格を見ても、その方がうまくいきそうですよね」

松崎「まあ、フランクは頭が堅いからその選択はしなさそうですけれど(笑)」

小川「今の時代だったら、できる可能性があるなって」

松崎「確かに。あと、妻が笑っているから大丈夫、みたいな考え方にもハッとしました。笑っているから大丈夫と放っておくと大変なことになる。私の経験で言うと、笑ってやり過ごされるよりも、怒らせちゃって全部吐き出させるほうが、溝にならなくていいと思っています」

小川「原作者も監督も脚本も男性で、男性性の脆さを痛々しいほどに描いている作品であることもポイントじゃないかと。加えて、なんでも現実にしてしまいそうなパワフルなエイプリルを演じるウィンスレットは説得力しかないし、ディカプリオが表現する、どうしてもかっこつけてしまうかかっこう悪さがまた最高なんですよね」

表面上は幸せに映っていても、それが真実とは限らない…

松崎「キャシー・ベイツのヘレンが一方的にしゃべっているなか、彼女の夫は話を聞きたくないとばかりに補聴器のボリュームを絞るラストシーンは笑いました。こういった描写は、長年結婚生活を送っている方なら、わかる!と共感する部分じゃないかな」

小川「お互いに、相手の気に入らない部分とうまく付き合っていかないといけないんでしょうけど、それは無関心ではないのかという疑問も生まれるんですよね。結婚って、夫婦ってなんだろう?と考えさせられました」

構成・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで
放送日時:2022年9月9日(金)8:00~、22日(木)21:00~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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