オードリー・ヘプバーンの魅力が際立つロマンティック・コメディの傑作『麗しのサブリナ』

永遠に輝き続けるオードリー・ヘプバーンの存在感!
『麗しのサブリナ』が今も色褪せない理由とは?

2023/05/01 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第26回に登場するのは、『麗しのサブリナ』(1954年)。サミュエル・テイラーの舞台劇を原作に、『アパートの鍵貸します』(1960年)など数々の名作を手掛けたビリー・ワイルダーがメガホンをとったロマンティック・コメディ。オードリー・ヘプバーンが『ローマの休日』(1953年)の翌年に出演した映画で、彼女が演じたサブリナが着るイブニングドレスやリトルブラックドレス、サブリナパンツはファッション業界に多大なる影響を与え、ヘプバーン自身もパリ・モードを体現する俳優となった。

大富豪ララビー家に仕える運転手の娘サブリナ(ヘプバーン)は、かねてから奉公先の次男デイヴィッド(ウイリアム・ホールデン)に恋をしていたが、プレイボーイの彼からは見向きもされない。見かねた父親や使用人仲間はそんな不毛な恋を忘れさせるため、サブリナをパリへ送り出す。そして2年後、サブリナは洗練された淑女となって帰国し、その変貌ぶりにデイヴィッドはたちまち魅了されてしまう。一方、一家の長男ライナス(ハンフリー・ボガート)は経営する会社の事業拡大を進めており、弟と合併先の社長令嬢の婚約を進めていた。サブリナとデイヴィッドを引き離そうと彼女に接近するライナスだったが、仕事一筋だった彼自身も次第に恋心を抱くようになってしまう。

俳優としてもファッションアイコンとしても革命的だったオードリー・ヘプバーン

松崎「映画史に残るロマンティック・コメディの傑作ですよね。なにより、ヒロインを演じるオードリー・ヘプバーンの存在感が抜群。彼女は団塊やその上の世代のアイドルという印象なのですが、僕が中学生の頃にもすごく人気がありました」

小川「いまだに憧れのアイコンなのだと思います。ヘプバーンが登場するまでのハリウッドの女性像は、ブロンドで青い目をしていてグラマラスであることが条件とされていたようですが、そういったカテゴリーにはハマらない華奢で黒い髪の少女感がとても魅力的ですよね」

松崎「まさに妖精です。ヘプバーンって50年代、60年代の出演作は多いのですが、70年代にはもうほとんど映画に出ていないんですよ。40代で1本、50代で2本ぐらいしか出演作がないのですが、僕が子どもの頃はテレビの洋画劇場でヘプバーン作品が何度も放送されていて、ほとんど専任で担当されていた池田昌子さんによる日本語吹替版でよく見ていました。なので、世代を問わずファンがいるんですよね」

小川「気品と知性が溢れ出しているというか、見透かされちゃうんじゃないかみたいな、ちょっとした怖さもありますよね。そういう女性の芯の強さがポジティブに捉えられるきっかけになったとしたら、ある種の革命だなと」

松崎「まさにヘプバーンは様々な革命をもたらした俳優だと言えます。衣装を担当したファッションデザイナー、ユベール・ド・ジバンシィとも本作をきっかけに縁ができましたね」

小川「ヘプバーンとファッションは切り離せない要素ですよね」

松崎「この映画で生まれたサブリナカット、サブリナパンツが今も現役であることを考えると、与えた影響はものすごいものだと実感します。70年も前から、ファッションアイコンとして残っていることの偉大さってほかに例えようがない」

小川「パリから洗練された姿で戻った時の、ジャジー・スーツもカクテルドレスも美しいですよね。今観ても素敵。彼女が自分をよく見せる服、似合う服を知っていることが伝わってきます。衣装デザイナーがいる作品で、俳優自ら劇中で着る衣装を別のデザイナーのコレクションから選ぶことは、監督が許したとはいえ、珍しいことだったんじゃないかなと。パリまで出向いて、ジバンシィに直談判したそうで。センスはもちろん、情熱と行動力がある方だったんだなと思います」

見違えるほど洗練された女性になったサブリナに夢中になってしまうデイヴィッド

古さを感じさせない名匠ビリー・ワイルダーによるおしゃれな演出

松崎「考え方も先駆者って感じがしますよね。ところで、本作は1954年公開の作品で、現在とは合わない価値観もあったと思いますが、そのあたりはいかがでしたか?」

小川「コメディとしてすごく面白いし、粋なセリフがたくさんありました。笑いのセンスはすごく現代的ですよね」

松崎「改めて、台本がよく練られていると感じました。セリフは本当におしゃれですよね。僕はサブリナと彼女の父親が交わす会話がお気に入りです。パリから帰国したサブリナにデイヴィッドが惹かれていることを察した父が、娘に『月に手を伸ばすのは止めろ』と諭すのに対し、『月が私に手を伸ばしているのよ』とうまく返すサブリナ。たまりません!」

小川「サブリナのお父さん、味わい深いキャラで素敵でした。ライナス役のハンフリー・ボガートよりもむしろ惹かれたくらい(笑)。また、ライナスが恋心を自覚して走り出すシーン、今だったら捲し立てるような音楽がかかりそうなものですが無音じゃないですか。そこは新鮮に感じました」

松崎「昔の映画って絶え間なく音楽が流れていることが多いけれど、この映画はそうではないですよね。あと伏線の張り方も素晴らしい。繰り返しのギャグとかも面白いし、どういう思考回路であの伏線を考えたんだろうと想像するだけでもすごくワクワクします」

小川「上品なユーモアが効いている感じがします。キュートと言うか」

松崎「ビリー・ワイルダーの才能を感じますよね。脚本家からキャリアをスタートした監督で、三谷幸喜などもものすごく影響を受けています。ヘプバーンとは本作で初めて組んで、『昼下りの情事』でも起用するお気に入りだったようです」

小川「ユベール・ド・ジバンシィとの関係もそうですが、新人の女性が業界の中で地位を築いていくために、お互いをちゃんと高められる関係性を大事にすることが不可欠だった時代なのかなと思いますよね」

弟から引き離そうとしてサブリナに近づくライナスも、いつの間にか彼女に心惹かれていた

松崎「一方で、ボガートはヘプバーンよりもかなり年上なのですが、『昼下りの情事』のゲイリー・クーパー、『シャレード』のケーリー・グラントと、彼女は映画の中では自分の親ぐらいの世代が恋愛の相手なんですよね」

小川「もちろん人気もあったんでしょうけど…。当時のヘプバーンの出演料は、ボガードのギャラの20分の1だったと聞くので、権力のある大御所俳優たちが若い世代に席を譲らないみたいな風習が強かったんですかね?(笑)」

松崎「たしかに。この頃は特にそういう時代だったかもしれないですね」

小川「もちろん、ベテランにはベテランの良さもありますけど。とりわけ20代のヘプバーンはそういう世界で輝くために、賢く謙虚に努力してきた感があってカッコいいですよね。まあ、ボガート演じるライナスの素直になれない感じも、日本の昭和のおじさんっぽくてかわいらしいですし(笑)」

松崎「現実的なおじさん感というのでしょうか。リアリティがありました。むしろリアリティがありすぎなのでは?とも(笑)。ヘプバーンの存在感と輝き、ワイルダー監督の巧さが際立つ映画です。ワイルダー監督のフィルモグラフィを見ると50年代は絶好調。サスペンスあり、戦争ものあり、コメディありで、しかも傑作ばかり」

小川「ジャンルに関係なく活躍できるのは実力があるからこそ。演出とセリフはどの作品でも際立っていますね。これぞ映画だなって感じで、夢を見せてもらった気分です。カラーじゃなくモノクロなのもこの作品の良さなのかなと思いました」

松崎「以前、カラー化したバージョンを観たのですが、たしかにこれじゃない感はありました。あと1990年代にハリソン・フォード主演でリメイクされているのですが、その結果はあえて触れません(笑)」

小川「モノクロフィルターだからこそ、すべてがシックに見えるというところもありますよね。頭の中で実際の色を想像してみるのも楽しいですし。時代感とキャストのバランスがちょうどよく、うっとりするシーンもたくさんありました。バックがVネックのカットソーを着た後ろ姿も美しくて」

松崎「ヘプバーンの美しさにうっとりするのは納得です。映画だからこそ映えた方とも捉えられますし、古臭さを感じることもないから、それぞれの時代でファンを獲得している。後世にいつまでも残り続けるという意味でも映画の成功例のような作品です。どこかファンタジー感もありますし」

小川「舞台セットも洒落てて絵になりますし、50年代にタイムトリップしたような感覚で楽しめる作品ですね」

取材・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
麗しのサブリナ
放送日時:2023年5月4日(木・祝)16:00~、10日(水)22:45~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)麗しのサブリナ
放送日時:2023年5月6日(土)6:30~、19日(金)0:30~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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