戦争映画の不朽の名作『戦略大作戦』が新たに生まれ変わる！追録に挑んだレジェンド声優たちの声をお届け

地上波放送時のバージョンに約40分の映像を追加したノーカット版『戦略大作戦【吹替完全版】ムービープラスオリジナル』

戦争映画の不朽の名作『戦略大作戦』が新たに生まれ変わる！
追録に挑んだレジェンド声優たちの声をお届け

2023/09/04 公開

不朽の名作『戦略大作戦』がノーカットの日本語吹替追録版として放送

第二次世界大戦期を舞台に、連合軍のならず者たちが金塊を巡って奔走する『戦略大作戦』(1970年)。クリント・イーストウッドにドナルド・サザーランド(ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」などで知られるキーファー・サザーランドの父)、『トイ・ストーリー』シリーズでMr.ポテトヘッドの声優を務めたコメディアン、ドン・リックルズらが出演し、『プライベート・ライアン』(1998年)など後継の戦争映画にも影響を与えた不朽の名作だ。

クリント・イーストウッド演じるケリー二等兵

そんな本作の日本語吹替追録版『戦略大作戦【吹替完全版】ムービープラスオリジナル』がムービープラスで放送されることが決定。地上波放送時にカットされていた約40分の映像を追加したノーカット版で、当時はイーストウッド演じるケリー二等兵を山田康夫、スチュアート・マーゴリン演じるリトルジョー二等兵を大塚周夫、テリー・サヴァラス演じるビッグジョー曹長を大平透が吹替えを担当していた。今回の吹替追録版の制作にあたり、追加された映像の音声をそれぞれ、多田野曜平、大塚明夫、楠大典が引き継いだ。本作の放送に合わせて、多田野、大塚、楠へインタビュー。そこで語られた収録秘話と大先輩や役への想いを紹介していきたい。

第二次世界大戦末期を舞台に、金塊をめぐる連合軍のならず者小隊とドイツ軍との戦いが描かれる

第二次世界大戦末期の1944年9月のフランス。ノルマンディー上陸作戦の後も前線で戦い続けるアメリカ陸軍第35歩兵師団のビッグジョー曹長率いる小隊は、なかなか戦果を上げることができず苛立ちが募っていた。そんな時、ドイツ軍の将校を捕らえることに成功し、ケリー二等兵らは彼からドイツ軍占領下のフランス銀行に大量の金塊が隠されていることを聞き出す。早速、任務を放棄して前線の奥深くへと進むケリーたち。しかし、そこで彼らを待っていたのは、苛烈な敵の防衛網や金塊をめぐる攻防戦だった。

多田野曜平、大塚明夫、楠大典が追録でのエピソードを語る！

クリント・イーストウッドの吹替えといえば、「ルパン三世」のルパン役でも有名な山田康夫だった。その後任として、現在、数多くの作品でイーストウッドの吹替えを務めているのが、スティーヴ・ブシェミやアラン・カミング、ウィレム・デフォーなども担当する多田野曜平だ。まずは多田野に本作の魅力や山田へのリスペクトを聞いてみた

「子どもの頃から何度も観ている作品なのですが、今回は観る前に(クリント・)イーストウッドの本を読んでみたんです。脚本を読んだ時点では『反戦』のムード漂うアクションとのバランスが取れた作品に感じられたそうで、監督も『マンハッタン無宿』などでタッグを組んだドン・シーゲルだと思っていたそうです。ところが、実際には監督は別の方(ブライアン・G・ハットン)で、映画自体も金塊強奪をメインにしたド派手なアクション映画になっていた。それを知ったうえで、本作を『反戦映画』と思って観返したら、それはまた違った面白さがありました。オッドボール(サザーランド／声：宍戸錠)なんて、要するに彼はヒッピーなわけで、実際にあんな人たちがいたのかどうか違和感はあったのですが、なるほどそういうことなんだ！と思いました。

山田康夫さんは、一言で言えば、『超えられない大先輩』です。私は70年代に小中高を過ごしたので、同世代の人たちはみんな、テレビで放送される山田さん吹替えの洋画が、意識する、しないにかかわらず刷り込まれているんです。映画俳優になりたくて東京に出てきて、いろいろな縁があって、たまたま山田さんがいる劇団に入ったのですが、その頃は自分が声優になるとも、ましてやイーストウッドを吹替えるなんて微塵も想像していなかったですね。

今回の追録で試してみたことがあります。僕はアゴが長いのでどうしても喉が圧迫されてしまうのですが、なるべく顔を上げて(喉元を)解放しました。自宅で思い付いたのですが、このほうが山田さんに似ている気がして。以前にもやってみたことはあるのですが、今回は椅子に座らせていただいて、マイクの角度も調整しながら本格的に実践してみました。作品ごとにイーストウッドの吹替え方を変えたりはしていないのですが、よくよく考えたら私は山田さんの追加収録として呼んでいただいているので、『山田さんが吹替えて、ニュアンスをつけたことによって僕らの脳内に認識されている、クリント・イーストウッドというキャラクター』を意識しているみたいなんです。老齢の『運び屋』だろうが、西部劇や『ダーティハリー』シリーズの刑事だろうが関係なく、山田さんのウィットに富んだ、シニカルなところもあるイーストウッドというキャラクターにどうやって近づけて真似してやろうか。そればっかり考えていますね」

山田康夫の後任として、様々な作品でイーストウッドの吹替えを務める多田野曜平

続いては、スチュアート・マーゴリンの追録を担当した大塚明夫。ニコラス・ケイジやスティーヴン・セガールといったハリウッドスターたちの吹替えで知られ、大河ドラマ「麒麟がくる」に出演するなど俳優としても活躍。最近は「ルパン三世」の二代目次元大介役にキャスティングされたことでも話題となった。そんな大塚が、父である大塚周夫への想い、リトルジョー二等兵のキャラクターについて語ってくれた。

「(父とは)以前もこういった形で一緒に仕事はしています。亡くなった日の仕事がナレーションで、そこで足りない部分を後で補完したのが最初でした。その後もゲーム作品の吹替えなどで(引き継ぎを)やったりしたので、つまり『2人で1つ』という形ですよね。楽しいです。なんだか一緒にやっているような気がしてね…。

(リトルジョー二等兵のような)役回りは父の十八番でした。なので、すごく楽しんで演じることができました。あくまで追録なので、オリジナルの父、大塚周夫さんのテイストを損なわないように(笑)。あたかも目の前に蘇ったかのように、できればいいなと思いましたね。部分的にじゃなく、父ならどういうふうに演じただろうな？と想像しながら補完していくのですが、そんなにハズれてないんじゃないかな、と。みなさんの記憶も徐々に薄れてまいりますので、条件は一緒ですから(笑)」

父、大塚周夫への想いを語ってくれた大塚明夫

最後に登場するのは、大平透の後任となった楠大典だ。多数の作品を担当しているおなじみのドウェイン・ジョンソンをはじめ、ジェイミー・フォックス、ヴィン・ディーゼル、ジョン・シナ、タイリース・ギブソンなども担当する実力派。ちなみに、大平からは「スター・ウォーズ反乱者たち」シーズン2以降のダース・ベイダー役も引き継いでいる。楠も大平の演技や共演した多田野、大塚の印象を振り返ってくれた。

「昔の映画なので台詞の尺がゆったりしているのかな？と予想して取り組んだのですが、意外にも大平透さんの台詞がものすごくタイトで、びっしり詰まっていました。これは読みながらではできないな、台詞をすべて覚えるレベルでないと難しいのでは？というくらい大変な作品でした。今とは時代が大きく違っていて、この作品を録っていた時期は吹替え陣が全員一度集まって、映像を観て、その日にテストして本番も録って…という感じだったので、私たちとはシステムが違うんですよ。だから、その当時に大平さんがこのように吹替えられていたというのは、今の僕がやろうとしてもできないんじゃないか？というくらいの職人技なんです。

僕が普段よく演じさせていただくキャラクターは、怒鳴ったり、長台詞を言ったりする人物が多いです。ただ、大平さんが演じたビッグジョーの台詞というのは、この作品の日本語訳を手掛けられた方々の言葉選びも現代とは違っていますし、より『生っぽい』んですよね。実際に当時の吹替え現場を見たわけではないのですが、もしかしたら大平さんご自身が生っぽい台詞を足している可能性もあるんじゃないかな？と思いました。大平さんは素晴らしい役者さんなので、そういったことができてしまうのかもしれません。

大塚明夫さんも多田野曜平さんも、大塚周夫さんの引き継ぎや山田康雄さん演じるクリント・イーストウッドの追録などをやられていますし、当然ながら素晴らしいんですよ。明夫さんの普段のお芝居の中でも貴重な部分が聞けるというか、そこは僕も追録していて楽しかったですね。もちろん、周夫さんの吹替えをなぞりつつではあるのですが、ああ、こういうお芝居をされるんだ！と。多田野さんに関しても、長らく吹替えを担当されているので、もう『まんま』なんじゃないの!?という。本当に素晴らしいと思います」