ゾンビと人間の壮絶な死闘を描く『新感染 ファイナル・エクスプレス』

スリリングな展開の中に社会に対する鋭い眼差しも
大ヒット・サバイバルアクション『新感染 ファイナル・エクスプレス』

2022/12/26 公開

高速列車にゾンビ襲来!乗り合わせた人々が逃げまくる

ワールドワイドに話題を提供し続ける韓国発の映像作品。その中にあって、映画とドラマを行き来しながら縦横無尽の活躍を続けているのがヨン・サンホ監督だ。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)は、それまでアニメーション作品を手掛けてきた彼にとって初となる実写映画。スリリングな展開の中に社会に対する鋭い眼差しを感じさせるエンターテインメントとして、世界を驚かせた。

別居中の妻の元に娘スアン(キム・スアン)を送り届けるため、ソウル駅から釜山行きの特急列車KTXに乗り込んだソグ(コン・ユ)。この列車では、ある女性が乗務員を襲ったことをきっかけに乗客が次々と謎のウイルスに感染し、凶暴な存在へと豹変していく。その後、感染者が全国各地で発生していることを知ったソグは、顧客から極秘情報を得て、停車した途中駅でスアンと共に脱出を試みるが失敗。乗客のサンファ(マ・ドンソク)やヨングク(チェ・ウシク)と力を合わせ、なんとか生き残ろうとするのだが…。

幼い頃からゾンビ映画が好きだったヨン・サンホ監督。「ソウル駅にいるホームレスたちの中でゾンビが発生したらどうなるだろう?」というアイデアは、アニメーション映画『豚の王』(2011年)でデビューする以前からを温めていたものだという。この企画は後にアニメーション『ソウル・ステーション/パンデミック』(2016年)として結実するが、その際に話を持ちかけた投資配給会社から「実写でやろう」という提案を受け、それに応える形で「アニメーションで描いた事件が起きた次の日にソウル駅を出発する電車の中の話」である今作が生まれたという。

極限下で繰り広げられる人間ドラマにも目を奪われる

ソウルから釜山へと向かう列車に乗り合わせた人々が、あらゆる手段を使ってゾンビたちから逃れようとする姿をシンプルに見せるこの映画は、カンヌ国際映画祭ミッドナイトスクリーニングでの好評や、正式公開前の大規模有料試写を受け、韓国映画として史上最多(当時)となる1567スクリーンで公開。韓国では最終的に1157万人を集める大ヒットとなった。

その後、ヨン・サンホ監督は『サイコキネシス ‐念力‐』(2018年)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020年)といった実写映画の演出だけでなく、脚本を手掛けたドラマ「謗法 〜運命を変える方法〜」や「怪異」、「謗法」のスピンオフ映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』(2021年)、原作ウェブトゥーンの段階から参加していたドラマ「地獄が呼んでいる」と、休むことなく活動を続けている。その作品群を見ていると、思わず「ヨン・サンホ・ユニバース」という言葉さえ、頭に浮かんでしまうほどだ。

演技派スター陣が極限の状況に追い込まれていく人々を好演

『新感染 ファイナル・エクスプレス』の成功は、もちろん、監督だけの功績ではなく、列車という閉ざされた空間の中で極限の状況に追い込まれていく人々を演じた俳優たちの好演も見逃せない。仕事に追われ、娘スアンからさえも見捨てられそうになっていたファンドマネージャー、ソグを演じているのは、『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年)など映画ではシリアスな面を見せて高い評価を得てきたコン・ユ。オーディションですばらしい演技を見せ、息子という当初の設定が娘へと変更されたというスアン役のキム・スアンとの間で再生されていく父と子の信頼関係が感動を呼ぶ。

「マブリー」ことマ・ドンソクがヒロイックな姿で魅了する!

そして、この映画で見せた強烈なインパクトで、助演から一気に主演へと駆け上がり、ついにはハリウッド映画『エターナルズ』(2021年)にまで出演することになるマ・ドンソク。増殖していくウイルス感染者たちにも怯まず、太い腕とわずかな武器で残された乗客たちの命を守ろうとするサンファは「ゾンビという、実際にはいないものが登場する映画なので、それ以外のものすべてをリアルにしたい」というヨン・サンホ監督の思いを体現したスーパーヒーローと言えるだろう。

そのほか、サンファの妻で妊娠中のソンギョンを、『トガニ〜』、『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)と、コン・ユとの共演が続くチョン・ユミ、野球部の仲間たちと共に列車に乗り込むヨングクを『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のチェ・ウシクが演じている。

迫り来るゾンビから必死で逃げようとする人々をコン・ユやチョン・ユミが演じている

2017年の日本公開を前に取材した際に、「伝えたかったのは2つです。まず、一般の人たちが持っている公権力に対する不信感。もう1つは、シナリオを書いている時に起きたセウォル号の事故の後、遺族がソウル市の中心で抗議をしていた際に、それを追い払おうとした人々の姿。終盤に登場する乗客の行動はその時のイメージをもとにしています」と語っていたヨン・サンホ監督。コロナ禍が続く今、改めて見直してみると、「感染者」たちに対する激しい嫌悪感や、隔離されることに対する恐怖など、映画の中に登場する設定が、比喩としてではなく現実の世界をそのまま描いたもののように、ストレートに伝わってくる。そして、「予想もしなかった状況の中で、自分以外の人を助けるために手を伸ばすことができるのか」という問いが心に残る。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む」(青弓社)がある。

<放送情報>
新感染 ファイナル・エクスプレス
放送日時:2023年1月3日(火)3:00~、10日(火)8:15~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)新感染 ファイナル・エクスプレス
放送日時:2023年1月6日(金)2:15~、15日(日)13:50~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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